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2018年9月28日-6
「この会社のビル建設に関わってるの?」
「違う」
見当違いな質問に鼻で嗤ってやれば、「ふぅん」と考え込むような声が聞こえてきた。が、名刺の裏の走り書きに気づいたのだろう。「あれっ」といささか素っ頓狂な声をあげ、面白いものを見つけたと言わんばかりのキラキラと光る双眸で、顔を覗き込まれる。
「もしかして、そういう人?」
「は? そんなんじゃねーよ」
心底、面倒くさかった。下着を履きながらにべもなく答えると、「じゃあ、お友達?」ときた。岳は何も答えない代わりに、鬱陶しげにため息をつき、優一から名刺を奪い取った。
「お友達でもないのね」
「うるせぇよ」
「ワンナイト的な?」
「黙れ」
優一は眉尻をへにゃりと下げると、口元に微苦笑を浮かべ、かぶりを振った。
「分かったわ、これ以上は何も訊かない。……でもね、前からずっと言ってるように、君にぴったりの人が必ずいるわ。君のすべてを受け容れて、寄り添ってくれる人。君が心の底から一緒にいたいと思える人。だから、最初から何もかもを諦めて切り捨てたらダメよ」
耳にタコができるほど聞いてきた言葉に、岳は大きく舌打ちをした。寝間着にしている長袖のTシャツとネイビーのスウェットパンツを着て、ポケットに名刺に突っ込む。
優一の瞳から、輝きは消えていた。寂しげで物言いたげな表情だったが、彼はそれ以上、何も言ってこなかった。おとなしく回り続ける洗濯機にちらりと視線をやり、脱衣所を出て行った。
……経験者の忠言ほどうざったく、説得力のあるものはない。気づけば、二度目の舌打ちが出ていた。
分かりたくはないが、分かっている。
けれども、それが決して容易くないと、優一も知っているのだ。
だから彼にはもう、何も言われたくなかった。様々な障壁を乗り越え、貴久という唯一無二の存在に恵まれた彼に、行き場のない苛立ちを覚えてしまうから。自分がますます惨めに思えてしまうから。
脱衣所を出て、優一と貴久がいるリビングではなく、隣接するダイニングキッチンのドアを開け、冷蔵庫から缶ビールを1本取り出し、そのまま2階へと向かう。
ベッドとタンス、クローゼット、ローテーブルしか置かれていない殺風景な自室に、明かりをつけることなく入る。綺麗に整えられたベッドに腰をおろし、ため息をつきながらビール缶を開けた。
冷えたそれを一口飲めば、特有の爽快感が喉元に広がっていく。次いで、頭にキンと痛みが走った。一口と言っても、結構な量を喉に流し込んでいた。岳は顔をしかめながら缶から口を離し、スウェットのポケットに手を突っ込む。
取り出した名刺を、破り捨てようと思ったのだ。
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