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2018年10月3日-1
足場鳶の仕事は、建設現場の足場の組み立てとその解体がメインだ。建設だけでなく、既存の建物の修繕や改修の工事にも呼ばれ、大工や塗装職人など、他の職人が効率的かつ安全に作業できるよう、仮設足場を作りあげていく。
岳は20歳になる年に、現在の職場である株式会社大磯組 に就職し、以来ずっと、この仕事に従事している。
10月3日、水曜日。今朝のニュースで言っていたように、薄曇りの空が見渡すかぎり広がっていた。
風は弱く、肌寒さは感じない。少し前までは残暑でうんざりするほど暑かったが、ここ数週間で緩やかに気温が下がっていた。今くらいが暑くも寒くもなく、一番作業がしやすい時期だと、個人的には思う。
岳は今日、修繕工事を終えた雑居ビルの仮設足場をばらすべく、8時前には代々木駅近くの現場に入っていた。
8階建てのビルは築20年で、今回が二度目の修繕工事だった。ひび割れたタイルの補修に貼り替え、鉄筋爆裂の補修、シーリングを行い、その後、外壁やタイルを洗浄し、鉄製部材や外壁を塗装した上で防水工事をし、修繕が完了したのが昨日だ。今朝から仮設物の撤去が始まり、終わり次第、不備や不具合がないかを確認する竣工検査が実施される予定だ。
時刻は9時46分を過ぎたところだった。朝礼後の8時10分頃から新入りから中堅、ベテランまで、幅広い層の足場鳶6人でメッシュシートを捲り取り、剥き出しになった枠組足場をばらし始めていた。現在、5階部分までの足場が個々の部材に分かれ、現場そばに停めた会社のトラックに整然と積まれている。
職長からの指示で、岳は足場の最上部で作業をしていた。
手順としては、鋼製 布板 と落下防止用の手すり枠から取り外し、交叉筋違 や枠上ベースに嵌めた建枠 を抜いていく。それらを下段の作業者に渡し、その作業者がさらに下段にいる作業者に降ろしていく。他にも細々とした作業はあるが、おおむねその繰り返しだ。この調子でいけば午前中か、遅くても午後の1時間もかからずに、すべてばらし終えるだろう。
枠組足場は安定性があり、組立や解体が容易く、時間効率も良い。みるみるうちに姿を現し、消えていくのだ。
岳は取り外した部材を、下段にいる作業者ーー白崎 に渡し続けていた。
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