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2018年10月3日-2

 白崎は同い年の鳶だ。6年ほど前に別の建設会社から転職してきた。高校を中退してすぐこの世界に入ってきたらしいと、同僚から聞いたことがある。過酷な肉体労働を強いられるため、身体を壊したり、すぐに逃げ出したりする奴も多いこの業界で、11年の職歴は長い方だろう。  白崎とは同じ現場で作業することが多いが、特に仲が良いというわけではなかった。  むしろ、どういうわけか一方的に毛嫌いされている。半年ほど前からだろうか、こちらへの態度が露骨になってきたのだ。  元よりふてぶてしい見た目と態度の奴だが、岳に対しては顕著だった。今も岳から部材を受け取る際、白崎は決まって睥睨してくる。これまでもそういった振舞いをされ続けていたが、そんなことをされる覚えはなく、ただただ不思議で不愉快だった。  けれども、本人につっかかり面倒事になるのは避けたかった上に、足場作業でこれといって支障をきたすわけでもなかったため、構うことはなかった。そのうち向こうも飽きて、何もしてこなくなるだろう。  そう思っていた。  手渡そうとした建枠を強引に掴み取られ、わずかに身体のバランスを崩した。心臓が不穏に飛び跳ね、胸のうちに恐怖心が突出した。手すりを撤去していたため、奥歯を食いしばりながら、よろけかけた足を踏んばれば、身体の重心は安定した。  嫌な汗が噴き出そうだった。安全帯を装着しているとは言え、地上12メートルほどの高さでのことだ。岳は眉を蠢かせ、まなじりをきつく吊りあげて白崎を見下ろす。……知ってか知らずか、白崎はそっぽを向いていた。  頭に、一気に血がのぼった。岳はグローブをはめた手を震えんばかりに丸め、大きな舌打ちをした。  流石に許せなかった。鳶職人にとって高所での安全作業は大前提で、金科玉条(きんかぎょくじょう)でもある。それを白崎は、確かに乱した。気のせいでは決してない。  いったい、こちらに何の恨みがあって、こんなことをするのだろうか。疑問であり、強い憤りでもあった。こちらに思うことがあるのなら、くだらない嫌がらせなどせず、面と向かって物言えばいいではないか。なぜ、それができない?  ……面倒この上ないが、こちらから動くしかなさそうだった。

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