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2018年10月3日-3

 10時になり、10分の休憩に入るよう、職長から指示された。職人たちはぞろぞろと足場から降りていく。  岳もアスファルトに降り立つと、ヘルメットを取り、併設されたプレハブ小屋へ向かおうとする白崎を呼びとめた。 「おい」  自分に言われているのだと分かったのだろう、白崎は足を止めて振り返り、気怠げに岳を睨んできた。その目顔に岳はさらに腹が立ち、大股で白崎に向かった。 「お前、俺に文句でもあんの?」 「……は?」  白崎は片方の口角を異様に下げ、鬱陶しげな声を出した。「なに訳分かんねぇこと言ってんだ。文句? 何もねーけど?」 「とぼけんじゃねぇよ、分かってんだろ。さっき、俺が上でよろけてたの、見てねぇわけがねーよな」 「知るかよ」 「だったら、いちいちメンチ切ってくんのは? ムカついてんだろ、俺に」  努めて苛立ちを抑えた声色で、岳は白崎を問い詰める。すると相手はあからさまに不機嫌な表情となり、岳と対峙した。 「ナメた口きいてんじゃねぇよ」  白崎が吐き捨てるように言ってくる。「俺の方がこの仕事に就いてなげぇんだ。エラそうにすんな」 「は? 俺がいつ、エラそうにした? つーかてめぇこそ、感じ悪りぃ態度ばっかとってんだろ」 「悪いかよ? ……いいか、俺のがてめぇより場数を踏んでる。経験があんだ。なのに、んでてめぇばっか……!」  白崎は言い切らなかった。けれども、相手が言わんとすることを岳は察し、思わずせせら嗤った。  なるほど。半年ほど前と言えば、岳が初めて中規模な現場で職長に任命された頃だ。  大磯組は創業70年を超える古い会社で、現場の職人は良くも悪くも年功序列だった。けれども近年、実力のある職人であれば、年齢に関係なく責任や権限を与え、結果を出した分だけ、半年に一度の賞与で相応の金額が支給されるようになっている。  そのため、岳の同世代や後輩でも、まずは小さな現場から職長になる者が増えていた。岳と白崎も2年前、同時期に職長に初任命されて以来、いくつもの現場で指揮を執り、新人の指導にもあたっていた。  岳は順調に、ステップアップを続けていた。  運動神経が良く、体力に自信はある。それに、勉強は嫌いでほとんどしてこなかったが、愚鈍ではなかった。仕事の覚えが早く、目端がきき、手際が良かった。口が悪く、すぐに怒鳴るが、指導した後輩はメキメキと成長している。  だからだろう、職歴の長い白崎よりも先に、上にのしあがっていくチャンスを得たのだ。

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