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2018年10月3日-4
「くだらねぇ。そんなに悔しけりゃ、しょぼい真似してねぇで実力で俺に勝ってみろよ」
バッサリと切り捨ててやれば、白崎は途端に顔を赤くし、横に広い小鼻を膨らませた。荒々しい鼻息が聞こえてくる。
「黙れ! ふざけたツラしやがって、ブッ殺すぞ!」
「やれるもんならやってみろ」
一歩、相手が距離を詰めてくる。腫れぼったい目が、こちらへの憎しみと侮蔑に染まっているのが見えた。
「ムカつくんだよ、てめぇ! 人殺しの息子が!」
「……は?」
愕然とし、震撼した。
と同時に、岳は色をなし白崎に吠えた。「てめぇ、今なんつった⁉」
「人殺しの息子だっつったんだよ!」
白崎も怒鳴る。「昔、ツレの女から聞いたんだ。船橋の中学に通ってた頃、同級生の親父が人を殺して捕まったってな。しかも、殺した相手っつーのが……ーー」
気づいた時には、右の拳が白崎の左頬に勢いよくめり込んでいた。
頬の肉と骨、それから歯の感触が拳に伝わり、ビリビリと痺れるような痛みが腕にまで走った。踏んばりきれなかった両足がよろめき、奥歯を食いしばっているため、唸るような声が鼻から洩れる。
岳の右フックをもろに食らった白崎は、膝から崩れ、そのまま尻もちをついた。殴られた痛みで顔が歪み、左頬は熱をもったように赤くなり、心なしか腫れ始めていた。
そちらを手で押さえながら、よろよろと立ち上がってくる。そして次の瞬間には胸ぐらを素早く掴まれ、右頬に衝撃と激痛が走った。ぐわんぐわんと揺れる視界にまなじりを決した白崎の顔が映る。左頬だけではなく、顔じゅうを赤くしていた。
左半身がアスファルトに打ちつけられる。骨にまで響くような痛みが広がる。右耳が水が詰まったかのように聞こえにくかったが、「おい、どうした!」と誰かの叫ぶ声がした。
その方を向くことはできなかった。なぜなら白崎が、馬乗りになってきたからだ。抵抗する間もなく、もう一度右頬に、拳が振り落とされた。目が飛び出そうなほどの痛みだった。
呻き声を洩らしながら、岳はいっそう怒 った。頭にのぼった血が、血管を破裂させるのではないかと思うほどだった。
相手のみぞおちに、素早く鋭く拳を入れる。白崎は蒼白い顔で目をひん剥き、岳の横にどすんと身を転がした。
激痛のあまり息ができないのだろう、ヒィヒィとか細い笛声を洩らし、悶絶している。その間に、岳は顔をしかめながら身体を起こし、白崎から距離を取った。
「久我、白崎、お前ら何やってんだ!」と職長の怒鳴り声が耳をつんざいたのは、その時だった。腕をぐいっと力強く引っ張られ、否が応にも立ち上がらされると、岳は途端に我に返った。
頭に集まった血が、さっと引いていく。ぐらりと、よろめいた視線の先では、白崎がいまだ起き上がれず呻いている。騒ぎを聞きつけて駆けつけたのだろう、泡を食った同僚たちが彼を囲い、「おい、大丈夫か?」「何があった?」と声をかけていた。
……やってしまった。
となりで職長が何かを言っているが、反応できなかった。岳はただただ蒼ざめ、その場に立ち尽くしていた。
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