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2018年10月3日-6

 過去にも、似たような問題を起こしたことがあった。  高校2年生の時だ。真夜中に渋谷センター街をふらついていた際、当時つるんでいた不良どもといざこざがあり、警察官と救急隊が駆けつける騒ぎを起こしたのだ。  今となっては(いさか)いの原因が思い出せない。それほどに瑣末なことだった。けれども、最初に暴力を振るったのが自分であることを、岳ははっきりと憶えている。難癖をつけてくる相手の顔を、力の限り殴ったのだ。  それを発端に、取り巻きを巻き込んでの大乱闘となった。岳の殴打により歯が折れ、脳震盪(のうしんとう)を起こして倒れた相手は救急車で病院に運ばれ、岳は渋谷警察署へとしょっぴかれる事態となった。  幸いにも、被害届が出されることはなかった。相手も岳を殴り蹴り、口の中を切るなどの軽傷を負わせていたのだ。 「所詮は子ども同士の喧嘩。大人である自分たちの責任でもある」ため、相手の母親と岳の保護者だった優一との間で示談が成立したと、岳はのちに聞かされた。自分たちが蒔いた種を彼らに刈り取らせたことを、今では強く恥じている。  けれども当時は、あまりにもガキで、どうしようもなく腐っていた。翌朝になって渋谷署に自分を迎えに来た優一と、当時、担任教諭だった貴久相手にも、非常に荒れた態度を取っていた。自らの愚行がどれだけ彼らに迷惑と心配をかけたのか、推しはかれないほどに馬鹿だった。  早朝のことだった。陰鬱(いんうつ)とした梅雨空が一面に広がり、あたりは薄暗く、物悲しげだった。 「ーー……親父さんと一緒だ」  署を出たところで、学校からの指示で来たという貴久が、静かに口を開いた。 「これだと、お前の親父さんと何ら変わりない」  学校から聞かされたのか、優一が明かしたのかは分からない。当時の彼らは、ただの教師と保護者という間柄で、まったく親密ではなかった。そう考えると、前者なのだろう。ともかく、貴久は父親のことを知り得ていた。  岳は驚愕した。それから、また取りのぼせそうになった。怒号が激流のごとく喉奥から発せられた。  この世で最も嫌悪している存在に重ね合わされる。それ以上の屈辱はなかった。 「何がだ? アイツと俺が何だっつーんだよ!?」  貴久の背後にいた優一が肩をひくりと震わせ、怯えていた。対する貴久は、落ち着いた様子だった。が、その目には力強いまでの怒りで色づいていた。  普段のジャージ姿から一変、背広をかっちりと着ていたこともあり、彼がまとう空気は固く、凄みがあった。

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