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2018年10月3日-7

 岳は当時、都内の定時制高校に通っていた。家庭の事情や精神的事情など、問題を抱えた者が多く在籍する中で、最も手を焼く生徒だった。  これまでも、貴久には何度となく大目玉を食らわされてきた。態度や口の利き方、校則違反などを厳しく咎められ、その度に暴れ、反抗していた。  酷い有様だった。貴久の言葉は、岳のひねきった心には響かなかったのだ。  けれどもこの時だけは、彼のただならぬ雰囲気に少なからず怯んでしまっていた。 「悪いことをして、警察や家族に迷惑をかけた。お前の親父さんもそうだったんだろ? それが分かっていれば、今回のようなことはしなかった」 「なっ……ーー」 「親父さんの方が、お前とは比べ物にならないほどのことをした。でもな、それを反省し、罪を受け容れている分、お前よりマシに思える。お前はどう思う?」 「うるせぇ! てめぇに何が分かんだよ!」  第三者に訳知り顔で懇々と説教されれば、そう思うのが当然ではないか。  けれども、弱い犬ほどよく吠える。岳の脆弱な心は、慟哭するように激しく震えていた。 「そうだな。俺が分かってることなんて、まだまだ少ない。でもな、お前が起こした問題をどうやって解決するかを考えて、行動する責任が俺にはある。だからこうやって口出ししてるんだ」 「だったら、学校なんて辞めてやる! 辞めて、どこかへ行ってやる。てめぇらの世話にはならねーし、もう二度と会わねぇ!」 「それは無理だ」 「は?」  嚇怒(かくど)にまみれた岳の双眸を、貴久はまっすぐに見据えてくる。  怒りとは似て異なる感情が、彼の目に映し出されているようだった。  それは、どこまでも深く、決して揺らぐことのない光となって、岳の瞳を射抜いてきた。  ……心はさらに怖気づき、震えた。  この場から逃げ出したい。そう思うよりも先に、脚が勝手に動いていた。けれども、そうはさせまいと貴久が素早く腕を掴んできた。その力は強く、岳はあっさりと動きがとれなくなってしまった。 「お前は独りでは生きていけない」  貴久ははっきりと言った。「成人しているならまだしも、未成年のお前でやれることが、どれだけある? 今回の件もそうだが、お前がどこで何をしていても、問題を起こせば、最後は叔父さんがすべての責任を被る。お前の代わりに尻拭いをすることになる。保護者っていうのは、そういうもんだ」  掴まれた腕が痛かった。熊のように太い貴久の指が皮膚に食い込んでいた。必死に振り払おうとするが、まるでびくともしない。  気が狂いそうだった。

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