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2018年10月3日-11
その後、自校の生徒が暴行問題を起こしたとして、岳が通う定時制高校内で、水面下ではあるものの大きな騒ぎとなっていた。
岳の処遇について関係者間で議論される中、優一は学校を訪れ、校長や職員の面々に土下座して謝罪し、退学にだけはさせないでくれと頼み込んだという。担任教諭の貴久も同じく頭を下げ、岳の更生に尽力すると宣言したそうだ。
ふたりのお陰で、2週間の停学処分のみに留まった。
この一件を経て、岳は少なからず心を入れ替えた。態度は反抗期のままだったが、三鷹の自宅に帰るようになり、学校にも行くようになった。
けれども、これまでサボっていたツケは大きく、その年は留年してしまい、周りより1年遅く高校を卒業することとなった。その後は、現在勤めている建設会社に就職、最初の1年間は企業内訓練校で建設工事の基礎や実技を学び、2年目から現場で作業に従事するようになった。
就職してからは、都内で一人暮らしをしながら、働いた金で生計を立てていた。
自分にまつわるすべての責任を、自分で持つようになった。
だからと言って、今回の諍いを起こしていいはずがなかった。
17歳のあの日、岳は密かに猛省したのだ。
暴力的になってはいけない。そうなってしまえば、自分の人生だけでなく、周りの人間をも転落させかねない。それだと、まるっきりあの男と一緒になってしまう。
それだけは、絶対に嫌だと。
……なのに、こんなことになってしまった。
岳は視線を落とし、深いため息をついた。近くにいる人々の怪訝な視線を感じたが、どうでもいい。自己嫌悪に苛まれ、鬱々としてくる……。
「ーー……となり、いいかな?」
心地のいい、初夏のそよ風を思わせる声が聞こえた。うっすらと聞き覚えがあった。岳ははっと我に返り、顔をあげる。
つい最近、渋谷のゲイバーで引っかけた男が、いつの間にかそばにいた。
あの時はカジュアルな服装だったが、今の彼は紺色のスーツを着こなしていた。白いワイシャツに、ネイビーベースに水色と白のストライプが入ったネクタイを締め、黒い革製のビジネスバッグを提げ、磨きあげられた焦茶色の革靴を履いていた。緩いパーマがかかったミディアムヘアだけは、あの時同様に七三分けにされ、掻き上げるようにセットされていた。
スマートで隙のない、大人の雰囲気を存分に醸し出した彼は、嬉しそうに笑ったかと思えば、次の瞬間には面喰らっていた。まぁ、そんな顔になるわなと、岳は内心思いながらも、思わぬ邂逅 にいささか戸惑っていた。
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