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2018年10月3日-13
……あの夜に見せられた煽情的な姿とは、まるで違う。あんなにいやらしかったのが嘘のようだった。
そのギャップに、劣情がさざ波のように湧き立つ。白昼の病院で、不埒な欲望が芽生える。
……今すぐ、そのスーツをひん剥いて、乱してやりたい。
あの痴態を目の当たりにしたい。
腕の中で、艶やかに鳴かせたい。
そんなことを思っていると、沈鬱としていた心情が少しばかり晴れてきた。
悔やんで猛省するのは、後だ。今はこの男を構いたかった。
「アンタは、いかにもデキる営業マンって感じだな」
岳はにやりと笑い、頬杖をついて男を見る。相手は謙遜気味に笑った。
「いや、デキるってことはないけど……まぁ、営業はまず見た目が大事だから、身嗜みには気をつけてるかな」
「それが、あんなにエロくなるんだから驚きだわな」
するりと伸ばした手で、相手の手指をさらりと掠めた。男は意表を突かれたとばかりに目を見開き、頬をじわじわと赤らめた。顔を背け、小声で咎めてくる。
「……人に聞かれたらまずい」
「誰も聞いちゃいねーよ。なぁ、仕事中にエロい気分になったりしねーの?」
「しない」
「今は?」
男がじとっとした目で、こちらを見た。その視線にすらゾクゾクとしてしまう。岳はすっかり、その気になっていた。
「今夜、予定は?」
「……ないけど」
「後で、連絡する」
ディスプレイに自分の番号が表示され、岳は立ち上がった。運良く、自動精算機が1台空いたところだった。
……名刺を捨てずに残しておいて良かった、と素直に思った。自身の気まぐれに感謝した。
けれども、他意はまったくない。この男の肉体を再び味わいたい。それだけしか思っていなかった。
男が戸惑った目で見上げてくる。
「でも、怪我してる……」
「あっちの方は元気だし問題ねーよ」
「なっ……」
「じゃあな、皆川さん」
男ーー皆川 千景は「な」のかたちで口を開けたまま、固まっていた。この前とはまるで別人のようなウブな反応に、思わずにやりと笑う。そのせいで腫れた右頬がずきっと痛んだが、気にならなかった。
オンとオフで人が変わるタイプなのだろう。なんにせよ、昂る。岳は彼に背を向け、右手をひらひらと振った。
夜が待ち遠しい。などと思ったのは、生まれて初めてかも知れない。
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