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2018年10月20-2
「ーー……今ってさ、どれくらいの人間と、こういうことしてるんだ?」
ふいに興味が湧き、気怠さを多分に含んだ声で訊ねてみる。岳は煙草を咥えたまま、何だ突然と言わんばかりの顔を向けてきた。
「何で?」
「んー? 興味があるなぁと思って」
岳は視線を虚空へとやり、ふーっと白い煙を吐いた。煙はベールのように薄く広がり、次第に消えていく。
「今はアンタだけだ」
「……へっ?」
思わず、素の声が出てしまい、千景は内心ひどく慌てた。その声を掻き消さんと咳をしてみたが、果たして意味があるのかどうか。
けれども、岳は特に不審には思っていないようだった。膝に乗せた灰皿に吸い終えた煙草を擦りつけながら、言葉を続けた。
「同時に何人もってめんどくせーんだよ。つーか、他の奴らとは一回ヤッたら、それで終いだし」
不覚にもドキッとしてしまった。
またしても腑抜けな声が飛び出しそうになるも、今度はしっかりと堪えた。……千景は涼やかに微笑む。が、上手く笑えているのだろうか。
「じゃあ、なんで俺とは、何回も会ってくれるんだ?」
灰皿をベッドの下に置くと、岳はこちらをちらりと見て、にやりと笑う。
「アンタがエロいから」
……喜んでいいのだろうが、本当のところは、なんとも複雑な気持ちだった。
「けど、これまでにも、そんな相手はたくさんいたんじゃないのか?」
「まぁ、いたな。けど、そのままずるずるいって深入りされんのも面倒だったし」
俺となら、そうはならないと思っているのか。
ということは、やっぱり偽装が上手くいっているわけだ。
……芝居じみたことをするのは、高校の時以来だった。あの時は演劇部の友人に頼み込まれ、断りきれずに、文化祭の劇で王子役を演じた。その一度きりだが、なんとかなるものだなと、千景はほっとした。
「恋人を作ろうと思わないのか?」
「思わねぇ」
即答だった。これには思わず、苦笑した。これまで、さぞかし言い寄られたり、面倒事に巻き込まれたりなどしてきたのだろう。気楽に身体を繋げて、切れる相手がいればそれでいい。岳はきっと、そういう人間なのだ。
……その器用さが、少し羨ましかった。
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