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2018年11月9日-4

 その日は土曜日で、父親は家にいた。リビングでテレビを見ているはずだ。岳はふらりと、椅子から立ち上がった。 「父さんと話してくる」 「待って! 駄目よ、それは!」  祖母は強い口調で、岳を制した。「いい? 明日、おじいちゃんとそっちに行くわ。それまでは、お父さんに何も言っちゃ駄目。この電話のことは内緒にして、普段どおり接するの」  互いに、息が荒れていた。加えて、岳の心臓は早鐘を打ち、手足の先から熱が奪われていく感覚に見舞われていた。  祖母が言わんとしていることが、分かるようで分からなかった。いや、分かりたくなかったのかも知れない。 「……ばあちゃん、母さんは……?」 「大丈夫よ、岳。おばあちゃんを信じーー」  祖母の声を遮るように、インターホンが鳴った。岳は驚き、ドアの方を向いて固まる。  時刻は21時過ぎだった。こんな時間に誰だ。ドアの向こうから「はーい」と父親の低い声が聞こえてくる。電話を切り、岳は自室から出た。  忍び足で玄関へと向かえば、父親がドアを開けたところだった。ドアの向こうに、スーツ姿の男性がふたり立っていた。黒い何かを顔の横にかざした彼らは、「鎌ケ谷警察署の者です」と名乗り、「久我 晃一さんですよね?」と父親に問うた。  スウェットを着た父親の背中が、心なしか強ばったように見えた。「はい、そうです」と頷いた父親に、刑事は「署までご同行願いたいのですが」と淡々とした口調で言った。鈍く光った4つの目が、父親をじっと捉えていた。  父親はそろりと振り返り、岳を見た。息子がそこにいると気づいていたのだ。そして、自分と瓜二つの顔を翳った表情で見つめながら、「息子を、実家に送ってやってくれますか?」と刑事らに頼んだ。 「ええ、分かりました」  無機質な口調で刑事らが応じたところまでは憶えている。その後のしばらくの記憶が、岳の頭からはごっそりと抜け落ちていた。  次に遡れる記憶が、翌日の昼過ぎのことだ。  放心状態から徐々に抜け出し、事態を少しずつ理解しだした頃、祖父ーー晃一と優一の父親のもとに、鎌ケ谷警察署から連絡が入った。祖父とそばにいた祖母は、そこにいっさい血が巡っていないのではないかと思うほどに顔を蒼くし、泣き崩れていた。

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