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2018年11月9日-6
何より、あの男と自分が、どこまでも似通っているという事実が非常に腹立たしかった。顔立ちや声、体格、淫乱さ、そして短気で凶暴な性質。過ちを犯すたび、自分にはあの男の血が色濃く流れているのだと思い知らされ、ほとほと嫌になる。
変わろうとしても変われずにいる。そのことが自己嫌悪と自己否定感を増幅させ、岳のひねた人間性を作りあげていた。
……父親の存在を遺却できれば、どれだけ楽だろうか。
できるわけがなかった。それは同時に、母親や祖父母への愛情、彼らの死、優一と自分が歩んできた日々、自らの暴力性に対する認識や嫌忌 までも打ち捨てることになってしまう。
だから永遠に、あの男に縛られて生きていくしかなかった。
今朝、殺人と死体遺棄の罪で服役中だった父親が仮釈放された。
先週、優一のもとに安馬氏から再び連絡があったのだ。「一応、耳に入れておかれた方がいいと思ったので」と前置きされた上で、その日を伝えられたという。
第一審で懲役16年の実刑判決を言い渡されると、あの男は控訴しなかった。刑が確定し、千葉県内の刑務所に入ったのが今から12年と3ヶ月ほど前。日々の受刑態度から更生が認められ、再犯の恐れがないとも判断されたため、諸々の条件はつくものの、刑期満了を待たずして一般社会に戻ったのだ。
ここ数日、岳の心を不穏にさせていた原因がそれだった。
そして、先ほどすれ違った男に父親の面影を重ねてしまったことで、心はぐしゃぐしゃにひしゃげていた。
……もう、どうなってもいい。
駒込のマンションに帰宅してすぐ、岳はスマートフォンを取り出した。とにかく、このやり場のないどす黒いものを吐き出したかった。でないと気が狂って、何もかもが滅茶苦茶になりそうだった。
その頃、千景はキャリーケースを転がしながら東京駅からJR中央線に乗り、自宅の最寄駅である吉祥寺へと向かっていた。
時刻は19時を過ぎたところだった。千景と同様、家路につこうとしている会社員や学生で快速電車内は混み合っていた。両隣に立っている人の腕に挟まれてしまい、左手でキャリーケースを支え、右手でスマートフォンを操作するのがやっとだった。早く、吉祥寺駅に着いてほしいと思い、胸のうちで青息吐息をこぼした。
大阪へ行くのは5年ぶりだった。
新卒で入社後、3ヶ月間の研修を経て配属されたのが、大阪支社の営業部だった。そこで二年ほど勤務したのちに、鹿児島営業所で3年半、現在の部署ーー東京第1営業部 営業2グループで2年半ほど働いてきた。
久しぶりに触れた大阪の空気は、とても懐かしかった。大都市ではあるが東京ほど洗練されてはおらず、フラットで温かみを感じる。四方八方から飛んでくる関西の言葉は相変わらず軽妙で、この街にまた戻ってきたという実感を千景に与えてくれた。
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