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2018年11月9日-8
3日ぶりに自宅マンションに帰宅した。キャリーケースの中身を整理してからシャワーを浴び、岳が来るのを待った。いつもとは違う緊張感が、千景の胸のうちにはあった。
時刻は21時前だった。インターホンが鳴り、千景は玄関へと向かった。
いつも通り、気さくに出迎えよう。大丈夫、落ち着いていこう。
そう思いながらドアを開けた瞬間だった。
強い力で腕を掴まれ、びっくりしたのも束の間、玄関の壁に身体を押しつけられた。
顔が壁にぶつかり、鼻や頬の骨に鈍い痛みが響いた。ひゅっと息が逆流し、声が出せなかった。全身が硬直し、心臓までもが止まりそうだった。
何だ、何が起こった……!
パニックと恐怖に陥っていた。抵抗できないでいる間に、何かで後ろ手に縛られ、ボトムと下着をずりおろされる。そこでやっと、小さな悲鳴が飛び出た。次いで、震える声で相手の名を呼ぶ。
「く、久我くん……なにして……あっ!」
何の前触れもなく突然、臀部の割れ目に指が触れ、狭い窪みに強引に捻じ込まれた。異物感と裂けるような痛みが走る。千景は背中を仰け反らせ、顔を歪めた。
「あ、あっ! 痛い……っ、やめ……!」
根元まで挿入された指が、無遠慮に直腸内を弄り始めた。痛みと苦しみで、締められた喉奥から呻きがまろび出る。
逃れようと身体を捩るも、相手の力の方が優っていた。びくとも動かない。彼の体重がかけられた背中が、軋むように痛んでいた。
……いったい、何がどうなっている? 何で、こんなことに……?
耳元で荒々しい息の音が聞こえる。そこに含まれているのは、欲情と焦燥だけではなかった。
ドアを開けた際、一瞬だけ見えた岳の顔は、昏い怒りに染まっていた。
苛烈さはなかった。至って静かに、鋭い冷気を迸らせているような、そんな感じだった。
岳とは、かなり浅い付き合いだ。
けれども、そのただならぬ様子から、余程のことがあったに違いないと、察するのは容易かった。
「……っ、久我くん! やめろ、やめてくれ……ッ」
腹のなかから、指がずるりと抜け出ていく。と、ほぼ同時に、きつく抱きしめられ、指とは比べ物にならないほどの熱と質量が、いまだ狭いそこを貫いてきた。
眼球の中で、白い閃光が弾けた。無理に繋がった箇所から、これまで感じたことのない激痛が生じ、さらにそれは背骨を伝って身体中に駆け巡っていった。
「あああっ! 痛いっ、やだ……ぁっ、……あ……!」
濁音混じりの悲鳴が、べったりと壁にへばりつく。全身の筋肉がガチガチに強ばり、縛られた両手は岩を掴んでいるように中途半端に曲がる。
痛みのあまり、涙が滲んできた。
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