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2018年11月9日-9

 岳は千景の苦悶に構うことなく、腰を動かし始めた。太く、長い棹がぬかるみの少ない腸壁を、容赦なく抉る。  技巧も何もない律動だった。内臓を押し上げられる苦しみで息が上手くできず、呻き声ばかりが乾いた口から洩れ出る。 「……う……うぅ……ぁ、……っ」  肉塊が潰れるようなおぞましい音と、皮膚同士のぶつかる音が響く。うなじにかかる吐息には、先ほどよりもじっとりとした熱を孕んでいた。  ここに来てから、岳は一度も言葉を発していない。  獣の息遣いと凶暴さを以って、千景を犯しているのみだった。  ……岳にとって自分は、性欲処理のためだけに繋がっている相手だ。嫌というほど分かっている。  そして自分は今、それ以下の扱いを受けている。  頬を伝う涙には、その悲しみと苦しみが溶け込んでいた。汚い嗚咽がぽろぽろと溢れ、ぽたり、ぽたりと、涙が床に落ちてゆく。  やがて岳は最奥で動きを止め、唸り声と極まった吐息を洩らしながら、千景のなかに体液をぶちまけた。その熱と感触に硬直したままだった身体が震え、千景は掠れた声を虚空に向かって泳がせた。 「……あ、……ぁ……」  身体を束縛していた長い腕が弛緩し、硬さを失いつつあった性器が、窄まりから抜け出ていく。支えがなくなったぼろぼろの四肢は、壁にもたれるようにして、ずるりと崩れていった。  じくじくと熱を帯びた痛みとペニスの感触が残るそこから、どろりと流れ出てくるものを感じながら、千景は声を殺して泣いた。三十路の男のくせにみっともないと分かっていても、涙が溢れて止まらなかった。  やがて、両手首の縛りが解かれた。身体の自由を取り戻したのに、ちっともそんな感じはしなかった。肩を掴まれ、身体の向きを変えさせられると、おのずと悲鳴があがった。 「……いやっ、嫌だ……!」  岳を拒絶するように、千景は上半身を大きく捩った。酸欠状態の頭も左右に振れ、ぼうっと鈍痛が走ったが、構うことなかった。  凄まじいまでの怯えと空疎。それらが心を巣食っていた。  もはやいつもの、余裕のある男性を演じられるわけもなく、千景は千景として、この状況から逃れようとしていた。  ……岳の顔を見ることもなく。 「……悪い」  聞こえてきた声に、いっさいの動きが止まった。  深い悔恨と震えで出来あがったような声音(こわね)だった。それに、肩に置かれた手もぶるぶると戦慄いていた。千景はきつく瞑っていた目を開け、おそるおそる顔をあげた。

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