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2018年11月11日-1

 11月11日、日曜日。夏はとうに過ぎ去ったというのに、その名残を色濃く感じるような晴天だった。休日ということもあり、JR線は行楽地へと向かう人々で混み合っていた。  絶好のお出かけ日和というやつだが、生憎、予定など何ひとつなく、岳は昼前から三鷹市の実家を訪ねていた。  けれども家に、優一と貴久はいなかった。優一は仕事で、貴久はジムにでも行っているのだろうか。合鍵で中に入ってから、優一にテキストチャットで連絡を入れると、「今日はこれから貴久と映画を観て、買い物するから、夕方頃に帰るわ」と、語尾に音符をつけて返信があった。  電話をかけなくて良かった。かけていたらきっと優一の上機嫌な声に、苛立ちを隠せなかっただろうから。  根底には大きな自己嫌悪。そこから、心細さや不安といった負の感情が深く根を張り、胸のうちに伸び広がっていた。  ダサくて決して口には出さないが、誰かにそばにいてほしかった。だからこうして実家に来たが、ここでもひとりぼっちだった。  しょうがないので、岳は冷蔵庫から缶ビールを取り出し、解凍した枝豆や棚にあったさきいかをつまみに、真っ昼間からリビングで酒盛りを始めた。途中で惰眠を貪ったり、優一が買ったとみられるアクション映画のDVDをぼうっと鑑賞したりしながら、缶ビールを5本空け、それだけでは足らずに水で割った芋焼酎を3杯呑み、つまみもすべて平らげた。  優一に負けず劣らずのうわばみであるが、今日は妙に酔ってしまった。脳髄に輪郭のない重みを感じ、顔がほんのりと熱くなった。身体もなんだか気怠かった。  岳はくたりとちゃぶ台に突っ伏すと、そのままとろんと瞑目した。   ……微睡みの中、曖昧模糊と浮かんでくるのはやはり、2日前のことだった。  まただ。また感情が抑えきれず、結果、人をひどく傷つけた。  しかも、意図的に。  どうにでもなれと乱心し、千景の自宅を訪ね、強引に身体を繋げた。ボトムから抜き取ったベルトで彼の手を縛り、ひどく痛がり泣き呻く彼を好き勝手に犯し、鬱憤を晴らしてしまった。  分かっていたことだが、冷静になった瞬間、岳を襲ったのは計り知れないほどの罪悪感だった。  号泣し、怯える千景の姿を見て、とんでもないことをしてしまったと血の気が引いた。  こうなることを想像できていたのに、それでも自分は罪を犯した。どこまでも度し難く、最低だった。岳は千景に心の底から謝罪した。どうか許さないでくれと、強く願いながら。  けれども千景は、岳の過ちを許した。  それだけではない。岳を慮り、優しく扱ってくれた。ぬくもりを与えてくれたのだ。  こんな自分にだ。10年以上、塞がることなく血を流し続けている岳の傷を、そうだと知らないながらも気づき、それごと抱擁しようとしてくれたのだ。

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