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2018年11月11日-3

「ただいまー。岳、いるのー?」  玄関から聞こえてきたハリのある声に、岳の意識は現へと戻される。目を重々しく開き、むっくりと顔をあげた途端、頭がガンガンと割れるような痛みを覚えた。酷い悪酔いだった。深いため息をつき、ぐったりと項垂れたところで、リビングのドアが開く音がした。 「……うわっ、何これ」 「なんだ、どうし……酷いな、これは……」  優一と貴久の呆れた声が鼓膜を苛む。岳は小さく舌打ちをし、もう一度ため息をついた。  けれども、酒の臭いがむわっと漂い、空き缶やゴミが散乱する中、酔い潰れて動けなくなっている奴がいれば、誰だってそんな反応をする。俺だって、する。……憐れな奴だと、岳は心中で自嘲した。 「岳。おい、大丈夫か?」  貴久が傍らにやって来たのが、気配で分かった。分厚くどっしりとしたそれは、淀んだ空気を蹴散らし、岳の身体を覆った。「ゆう、スポドリ。なかったら水を」と芯のある低声が間近で、少し離れたところから間髪入れずに「もう用意してる」と急いた声が聞こえてくる。程なくして耳元で、トン、と何かが置かれる音がした。 「水分不足になってるんだ」  貴久は言う。「ほら、飲めるか? 少しは楽になるはずだ」  落ち着いた声に促され、岳は伏せていた顔をあげた。ペットボトルのスポーツドリンクが、目の前にある。蓋はすでに開けてあり、それをすぐさま掴んで、がぶがぶと飲んだ。  独特の甘味のある液体が喉を通っていく。どろどろに濁っていた体内が冷たく潤い、浄化されるようだった。  ひと口で半分以上飲んで、三口目ですべて飲み干した。 「スポドリ、それで最後だったから、ドラッグストアで買ってくるわ」  優一はそう言って、トートバッグを手にリビングを出て行こうとした。「しばらくそこで休ませて、楽になったら寝室に連れて行ってあげて」 「分かってる。岳、横になれるか?」  岳は浅く頷き、貴久に上半身を支えられながら、ゆっくりと後ろに倒れた。  その後の記憶が、どうもない。気づけば、自室のベッドの中にいた。  室内は閉めきられたカーテンを透かして、淡い夜色が差し込み、ぼんやりと暗かった。静寂がフローリングの床や壁を伝って広がり、肌には晩秋らしからぬ爽やかな冷気が寄り添っていた。  岳は枕元にあったスマートフォンを手にし、時間を確認した。……19時27分だった。  何時頃に優一と貴久が帰宅し、自分を介抱してくれたのかは分からないが、それなりの時間、眠っていたのではないだろうか。  頭の芯に鈍痛が響いていた。全身には倦怠感が広がり、起き上がるのが億劫だった。けれども、傍らに置かれていたスポーツドリンクを飲むため、呻きながら上半身を折り曲げ、その蓋をひねった。

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