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2018年11月14日-1
先週の日曜日に、岳から食事に誘われた。
突然のことにドギマギし、手を震わせながらも、千景はニヤける口元を抑えることなく、その誘いに気さくに応じた。自宅で、撮り溜めしていた医療ドラマをぼんやりと見ているところで良かった。もし、これが出先でのことだったら、周りから不審人物だと思われていたに違いない。
11月14日、水曜日。ここ最近はずっと、夜でも暖かい日が続いていたが、今夜は季節相応の心悲しい冷気が、都内に漂っていた。
けれどもここ、神楽坂にある肉バルの店内は、ジャケットを脱ぎワイシャツの袖を捲っていて丁度良いほどの暖かさだった。次に外に出たら、その気温差に身体が驚くことだろう。
3ヶ月前に取引先との接待で利用し、黒を基調とした内観と料理、酒がなかなかに良かったことを思い出し、このバルを選んでみたが、正解だったと思う。
今夜は外国人客が多く、英語や中国語、フランス語らしきものがあちこちから聞こえ、異国情緒に溢れていた。その雰囲気に包まれながら、店自慢の肉料理に舌鼓を打ち、赤ワインを口の中で転がす。これを瀟洒 と言わずとして何と言うのだろうか。
社会人になり、年数が経つにつれ、学生時代の友人や会社の同期が次々と結婚し、所帯を持ち始める一方で、クローゼットの千景だけが、変わらず独り身だった。友人たちとはすっかり疎遠になり、同期と飲みに行く機会も減りつつある。ここ数年は、主にハーモニカ横丁の大衆居酒屋で、喧噪の中、ひとり静かに呑むことが増えていた。
そのため、こんな小粋な店で、密かに想いを寄せている男と食事をするのは、正直とても緊張する。普段は旺盛な胃袋が少なからず萎縮しているのか、食事が進まない。けれども、味覚は正常に働いているので、多分、大丈夫だと思う。
頑張って、大人な男性を演じなければ……。
「ーー……肉と赤ワインって、なんでこうも合うんだろうな」
入り口近くのふたりがけのテーブルで、岳と向かい合って座していた。フルボディの赤ワインを口に含み、口腔や鼻腔に渋味が広がっていくのを感じてから、千景はほっと息を吐き、うっとりと笑みを浮かべる。
「すごく幸せ……」
「そりゃ良かった」
喫していた煙草を灰皿に置き、岳が軽く笑った。神楽坂駅前で落ち合った時、彼は非常に緊張した面持ちで口数も少なかった。が、普段どおり接しているうちに、表情が少しずつ和らいでいったので、千景は内心、ほっとしていた。
彼とは気まずいままでいたくなかったので、本当に良かった。
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