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2018年12月2日-5

 久しぶりのキスだった。  怖さはあった。けれども、それを払い落としていけば、暖かな光をまとった感情だけが、胸に残った。  ……幸せだ。  千景はその想いを、じわりと噛みしめた。  やっぱり俺は、久我くんが好きだ。そう思えば、心臓がとくとくと高鳴った。  だからこそ、身勝手になってはいけない。岳の言葉や思いを尊重し、彼が苦悩の中にいるのであれば、少しでも寄り添い、支えたい。  そこに見栄や打算はない。見返りや理想なども、求めない。  これはもはや、恋ではなく愛なのだろう。  ……永遠の一方通行ではあるけど。  我知らず、苦笑が滲んだ。しばらくぼんやりしてから、千景も靴を脱ぎ、部屋にあがった。  1DKの狭くも広くもない室内に置かれたシングルベッドに、ぼすんと身体を横たえ、長い息を吐く。  ……久我くんが出てきたら、まずは彼の話を聞こう。  何か、言いたいことがあるみたいだったから。  ゆっくりと寝返りを打ち、頷くようにまばたきをする。  弛んだ視線の先には、岳のショルダーバッグがある。  その傍らには、スマートフォンが転がっていた。革製の手帳型ケースが装着されているが、開かれた状態で、ディスプレイが露わになっていた。  ふいに、スマートフォンがブブッと震動し、ディスプレイが明るくなる。  何を思ったのか、千景は身をおもむろに起こし、それを見下ろした。  心臓が、凍りつきそうになった。  もうもうと湯気がこもる狭い浴室で、シャワーを頭から被りながら、岳はしばらくの間、瞑目していた。  湯飛沫が激しく落ちる音が足下で絶えず響き、四方の壁と天井に反響し、耳の中で氾濫する。けれども、岳の意識はそれと切り離された場所にあった。  煩雑だった頭の中は、内省を経て、ゆっくりと少しずつ整理されてきた。そこに意識を据え置き、これからのことについて、意思を固め始めた。  千景に自らの過去を打ち明け、気持ちを伝える。  彼に対する贖罪と、あわよくば自分という人間に興味を持ってもらうべく、食事や映画に誘ってきた。  こちらが誘う度に、千景は笑ってふたつ返事をくれ、約束どおりの時間に、約束した場所で岳を待ってくれていた。けれどもそれは、その後に岳とベッドを共にできると期待してのことだった。  千景からのアプローチを、岳はかわし続けていた。これまで通り、身体だけの関係でいれば、無闇に傷つくことはないだろう。気楽に気軽に人肌に触れ、欲望を発散するだけで、互いの心に踏み込まなければ、とても安全に違いない。  けれども、それでは嫌だった。  今の関係が崩れたとしても、自らをさらけ出す。  貴久に言われたように、勇気を出そうと思ったのだ。

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