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2018年12月4日-1
12月4日火曜日。時刻は23時過ぎだった。
去年のこの時期に中古で買った軽自動車を運転し、大山 貴久は自宅となって久しいツレの持家に帰ってきた。
静まり返った夜半の住宅街は、ポツポツと街灯がついているのみだった。車から降りて冬空を仰げば、大きく鋭利に抉れた月が浮かび、おびただしい数の星がめいいっぱいに散りばめられていた。
合鍵を使って自宅に入る。極力物音を立てぬよう玄関を抜け、優一が眠る寝室に向かおうと階段を上がろうとした。
が、その足を止める。人の気配を、ふと感じ取ったからだ。
貴久はのっそりと、リビングへと視線を向ける。警戒心はつゆほどもなかった。そこに誰がいるのか、考えずとも分かった。
ドアを開けてリビングに入れば、暗がりの中、岳がこたつで突っ伏していた。
大きな背中をぐるりと丸め、置物のように動かないでいる。その周りには鬱々とした空気が、色濃く漂っていた。空気に色はないが、仮に着色するとすればそれは、いかにも大雨を降らせそうな雨雲を思わせる、黒に近い灰色に違いなかった。
貴久は静かに、岳のそばに向かった。腰をおろし、胡座をかいた脚をこたつ布団の中に入れる。
「岳。起きてるか?」
そう声をかければ、数秒して、卓上にめり込まんばかりに伏されていた頭が、わずかに縦に振れた。寝息が聞こえてこなかったので、そうだろうとは思っていた。
「いつから、ここにいる?」
「……優一が寝てから」
生気がまるでない、低く嗄 れた声が答えた。優一が寝床につくのが22時頃なので、30分くらい前だろうか。
「それから、ずっとここにいるのか?」
「あぁ」
「泊まるなら、部屋に行け。帰るなら、早く帰れ。明日も仕事なんだろ? こんな時間まで起きていて大丈夫なのか?」
「知らねぇ」
自分のことなのに岳はおざなりに答えると、さらに身体を丸めてしまった。学生時代はラガーマンで、現在も身体を鍛えている貴久ほどではないが、岳もそれなりにがたいが良い。それが今は、塩をふった青菜のように萎れ、ひと回りもふた回りも小さくなっていた。
何か、ただならぬことが起き、そのために岳は非常に落ち込んでいる。
そう察するのは、難しいことではなかった。
思えば2日前の日曜日、優一が岳にテキストチャットでメッセージを送っていたが、なしのつぶてで、「どうしたのかしら」と心配していた。昨朝には電話もかけていたが繋がらず、「風邪でも引いたのかしら」とおろおろしていた。けれども夕方頃に、岳からひと言だけ、「電話かけてき過ぎ、うざい」とメッセージがきていたそうで、優一は安心したような、そうでないような微妙な感じになっていた。
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