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2018年12月16日-1
12月16日、日曜日。今日は特別、寒い日だった。
雨は降っていないものの天気が悪く、厚手のコートを着てマフラーを巻いていても、容赦のないビル風に身を掴まれると、身体の芯からぶるりと震えてしまう。いい加減、手袋をしないといけない。そう思いながらも、クローゼットの奥で眠っているであろうそれを探さずに、2週間ほどが経っていた。
昨日に引き続き、千景は吉祥寺駅近くにあるジムのプールで、ひたすら泳いでいた。
無心で。それが本能となっている海洋生物のように。
小学生の頃からずっと、フリーばかりを泳いできた。中学、高校、大学と水泳部に所属し、全国大会への出場はついぞ叶わなかったが、県や府の大会では概ね、上位の成績を残してきた。
上を目指せるほどの才能はなかったが、泳ぐことは大好きだ。
肩をなめらかに回し、腕で水を抉り、しなった木枝のごとく脚を揺らし、前へ前へと向かっていく。
息継ぎの度に見える景色は、水着姿の人々が立つプールサイドかレーンのため、ほとんど味気ない。それでも数秒前とは違う光景が、水しぶきと共に視界に飛び込んでくる。
自分は確実に、先へと進んでいる。そう感じ、気分は高揚していく。
毎週末のようにこのジムに通っている。毎回2時間ほどプールで泳ぎ、時折トレーニングルームで器具を使った筋力トレーニングに励んでいた。
勤務先と提携している施設のため、一般の人よりも何割か安い年会費で、好きな時に好きなだけ利用できる。東京の営業部に配属されてから1年半ほどになるが、このジムにはすごく世話になっていた。
ーー……週末の夜は、バーやハッテン場で出会った人と、愉しく遊んでるかな。
岳と初めて寝た夜に、含み笑いを浮かべながらそんな作り話をした。それを時々思い出しては、羞恥と後ろめたさに頭を掻き乱し、叫び散らしたくなる衝動に駆られている。
大嘘も大嘘だ。そんなこと、一度たりともしたことがない。
本当は、こうして淡々と過ごしてばかりだった。日中に泳いだ後は、自宅で昼寝をしてから、ハーモニカ横丁でひとりで呑んだり、撮り溜めしていたドラマや映画を観たり、読書したりと、地味な休日を過ごしていた。
岳の前では経験豊富なネコを演じていた。セックスが大好きな蠱惑的な男性でいようと努めていた。
ついつい、見栄を張ってしまっていたのだ。
本当の自分は、真面目で倫理的で、受け身で臆病で、そして寂しがり屋な男だった。経験人数は、岳を合わせてふたり。最初の男との関係が切れてからはずっと、部屋に隠し持った玩具で自らの身体を慰めてばかりだった。
自分は、虚しいゲイだ。
その殻を破りたくて、過去の失恋をいつまでも引きずっていたくなくて、あの晩、インターネットで調べた店に訪ねた。
そこで岳に声をかけられ、6年ぶりに男に抱かれた。
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