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2018年12月16日-2
初めての火遊びだった。内心ひどく緊張し、背徳感を覚えていたが、済んでみれば、存外に愉しかった。
岳とのセックスは、すごく気持ちよかった。
けれども彼とは、その一度きりだと思っていた。情事後の冷めきった様子から、彼はもう二度と自分と会ってくれないだろうと察していたからだ。
自分は、刹那的な男。都合のいい人間だった。
それで良かった。失礼ではあるが千景も、岳との経験を足慣らしにしか思っていなかった。生身の男相手に性感帯が機能するのを確かめてから、次の人ーー真面目な付き合いができる相手を見つけようと前向きに考えていたからだ。
……一途で誠実な男性と、穏やかで幸福な関係を築いていく。
それが千景の理想だった。
後々、岳に想いを寄せることになるなど、その時は考えもしなかった。
自業自得だが、自分は所詮、都合のいい人間にしかなれない。
本性や本心を隠し、相手に合わせて性格を変えるため、それ以上の存在になれないのだ。
ひょっとしたら、自分たちは両想いなのかも知れない。などと勘違いし、ちょっとでも自惚れてしまっていたことを、千景は深く恥じ、そしてひどく落胆していた。
ちょうど2週間前になるか。恵比寿駅近くで大胆な犯行に及んだのち、岳と一緒に自宅へと向かった。
それから、岳がシャワーを浴びて出てくるのを待っている間、千景は彼のスマートフォンをつい盗み見てしまったのだ。
それが間違いだったのか、正しかったのか。
なんにせよ、彼のスマートフォンには、恋人らしき人物から親密なメッセージが届いていた。
『次はいつ、こっちに来る?』
『できれば、すぐに電話がほしいの』
『話したいことがあって。待ってるね』
そんな文面だったと記憶している。
そう。岳には恋人がいた。いつの間にか、彼は特定の相手を見つけていたのだ。
恋人は作らない。セックスフレンドは千景だけ。以前、きっぱりとそう言いきっていた岳を、千景は信じていた。自分に彼を独占する権利などないと分かっていても、嬉しかったし安心していた。
けれども、それはいつしか、嘘になっていた。古い真実の中に、千景だけが取り残されていた。
そこでようやく、辻褄が合った。
だから岳は、千景を抱こうとしなかったのだ。本命がいるから。
けれども岳には、千景に対する後ろめたさがあった。やはり彼は贖罪のためだけに、自分を食事や映画に誘ってくれていた。それだけのことだったのだ。
……まただ。
またしても自分は、好きな人にとっての特別になれなかった。二番手や三番手……いや、それ以下の存在だった。
そう思い知らされた瞬間、凍りついていた心臓は粉々に割れ、後には虚しさばかりが広がっていった。
6年ぶり、二度目となる失恋は、千景を完膚なきまでの再起不能にした。
……もう二度と、恋なんてしない。
このまま、独りで生きていく。自分にはそれがお似合いなのだと、心の底から思った。そして、岳を追い出した部屋でひとり、年甲斐もなくさめざめと泣き明かしたのだった。
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