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2018年12月24日-1

 12月24日、月曜日。18時半過ぎの三鷹駅前は、クリスマスイブということもあって、見渡すかぎりの浮かれ模様だった。  キャリアショップや洋菓子屋の前では、サンタクロースに扮した店員がクリスマスセールのチラシを配りながら、溌剌とした笑顔と声を振りまき、その前を多くの人が通り過ぎていく。往来の中には同性同士の組み合わせや家族連れ、誰も伴わない者もちらほらいるが、やはり男女のカップルが多くを占めていた。  そんな中、駅近くに設置された喫煙スペースだけは普段どおり、煙たさと煙草臭さが充満し、スポーツ新聞や成人雑誌を開くオヤジどもでいっぱいだった。先日の有馬記念の結果について、だらだらと不満を垂れる二人組の爺さんもいる。浮かれた奴らはひとりもおらず、外の雰囲気を完全に遮断していた。  いつも通り、この場所で煙草を吸ってから、岳はいつも以上に人で溢れている駅前の目抜き通りに出た。  今日も風は冷たいが、朝から清々しいまでの晴天だった。夜になった今も、地上のどこか澱んだ空気とは対照的な、澄みきった紺碧の空が広がっていた。  ダウンジャケットのポケットに両手を突っ込み、煙草の臭いがする白い息を吐きながら、足早に実家へと向かう。  今朝、優一から電話があった時、岳は自宅のベッドに潜って、だらだらとしていた。眠気と気怠さを含んだ声で電話に出れば、「今日、暇でしょ?」と苦笑まじりの声が聞こえてきて、少しだけむっとした。 「そんなことない」と言い返したかったが、事実、その通りだった。今日は振替休日で仕事がなく、予定もいっさい入っていなかった。だから昼過ぎに、吉原のソープランドに行こうかと考えていたところだった。 「今晩ね、すき焼きにしようと思うから、帰ってきなさい。ね?」  相変わらずのオネエ口調に、音符を弾ませたような明るい声だった。それを鬱陶しく思いながらも、岳は「分かった」と無気力に答え、電話をきった。  寒い時期の鍋料理には、どうにも抗えない魅力がある。職場の飲み会にほとんど参加せず、鍋料理を食べに行くような友人もいないため、こんな時にしか食べられないのだ。仕方がない。  そうとなれば、ソープ嬢の匂いが染みついた身で実家に帰るのに抵抗があったため、吉原へ行くのはやめた。  優一も貴久も、なにかと鋭い。誤魔化せないほどに落胆し、荒んだ心身を慰めるため、仕事終わりや休日に、風俗嬢やクラブで捕まえた女を抱いていることを知られ、これ以上心配されるのがたまらなく嫌だった。  以前も、様々な男女とゆきずりの関係を結んでは解き、結んでは解くような日々を過ごしていたが、その頃と今回とでは事情が違った。  千景と上手くいかなかったために爛れた自分に、ふたりがどんな顔をするのか……考えるだけで、顔が歪んでしまう。  早晩、気づかれてしまうだろうが、隠せる間は隠しておきたかった。  気持ちの整理がつき、まともな生活が送れるようになるまで、ふたりに会わないでいようかとも考えたが、それだと逆に不審がられるだろう。しかも、そんな日がいつになったら訪れるのかも、皆目見当がつかないでいる。  ならば、不得手ながらも、彼らの前では平然としているしかない。  そうしたところで、誰も得しなければ、幸せにもならない。分かっている。嫌と言うほど、分かっている。  それでも、こうするしかなかった。

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