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2018年12月24日-2

 住宅街へと入っていけば、駅前のような喧騒はなく、むしろ、どこか寂しい雰囲気が漂っていた。  街灯で照らされた夜道をゆく人々がいて、楽しげな声も聞こえてきて、家によっては庭先にクリスマス仕様の装飾や煌びやかな電飾で彩られているが、煩くも毒々しくもない。クリスマスだからといって、むやみやたらと華やかな空気を押しつけられるよりは、こちらの方が何十倍と良かった。  実家に着いた。いつもと何も変わらない簡素な庭先に、オレンジ色の外灯。ハイ千峰の門扉を開けて中に入れば、玄関のセンサーライトが弾けるように灯る。その眩さに岳は目を(すが)めながら玄関ドアを開けた。  家の中から、談笑する声が聞こえてくる。  眉が蠢く一方で、身体は氷結したように固まった。……年齢不相応な若々しい声は優一、深みのある低い声は貴久。それはいい。それは、いつも通りだから。それとは別にもうひとり、男の声が耳に入ってきたために、岳はドアを開けたまま動けなくなっていた。  ……聞き覚えのある、爽やかな声だった。  季節に(たと)えるなら初夏、色にすれば空色。そよ風のようにさらりとした耳触りなのに、妙に余韻が残る。  あの男の声に、違いなかった。  驚愕と混乱。それらが全身に勢いよく巡り、胸がひどくざわつくのを感じた。指先からさっと感覚がなくなっていき、吐く息が震えた。  ……どういうことだ。  何がいったい、どうなっている。  取りあえず玄関に入り、靴を脱いで家にあがった。それから、ガチガチに強ばった手でリビングのドアを開ける。と同時に、ドアの向こうで話し声がやみ、部屋に漂っていた和やかな雰囲気が、僅かにピリッと張りつめた。  こたつを囲む3人の目顔が、岳に向けられる。  貴久と優一はにこやかな表情で、千景は岳に負けず劣らずの引き攣った顔だった。  前もってそこに、彼がいると分かっていたはずなのに、心臓が止まりそうだった。 「おかえりなさい、岳」  優一が明るい声で言った。「外、寒かったでしょ? 上着を脱いで、こたつに入りなさい」 「男4人だと、若干窮屈だけどな。ほら、こっちに来い」  貴久は朗らかに言い、彼から見て左側の空いたスペースをぽんぽんと叩いた。そこから時計回りに、千景、優一が腰をおろしていた。  つまり、千景の右隣に岳は座ることになる。顔の筋肉が、ますます固まった。

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