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2018年12月24日-3
「……なんで、ここに」
「俺たちが誘ったんだ」
パサパサに乾いた声で言えば、貴久が磊落な笑みで答えた。
「先週、皆川くんの通っているジムに行ったら、運良く彼を見つけて、声をかけたんだ。それから、三人で飲みに行った時に、その話になって。な?」
話を振られた千景は、微苦笑を浮かべた。
「まさか、吉祥寺でウチの会社と提携しているジムを調べて、足を運ばれたなんて、思いもしませんでした」
「皆川くんの話、岳から色々と聞いておいて良かったわ」
と優一。「トーラス製薬の社員で、自宅の最寄り駅が吉祥寺で、毎週末にジムのプールで泳いでるイケメン……ジムの常連さんからも皆川くんの情報を上手く聞き出せたから、すぐに特定できたんだって」
「これで違う人に声をかけていたら、と思うと冷や汗ものだったな」
「あのジム、会員間の情報伝達が早いから、大山さんがナンパ目的のゲイだっていう噂が広がらなくて良かったです」
「どこからどう見ても、そっち側の男って感じだもんねぇ、貴久」
「いやいや、本当に良かった」
そう言って貴久は笑い、優一もうふふと笑い声をこぼした。対する千景は、口元から苦笑を消し、恐々とこちらを窺ってきた。
3人のやり取りに呆気に取られていた岳は、そこでようやく我に返った。
途端に気まずさを覚え、踵を返そうとした。が、貴久に「岳」と呼ばれ、指先を押しピンで留められたかのように足が止まってしまう。
「裏から、カセットボンベを持ってきてくれないか? ガスコンロはもう用意してある」
岳は貴久を睨んだ。
「……アンタが取りに行けばいいだろ。俺は帰る」
「あ……、久我くん……」
千景の声が聞こえ、思わず、そちらに視線を向けてしまう。目と目が合えば、千景は決まりが悪そうに視線を揺らし、それから軽く目を伏せた。
その表情や仕草の意味するところが、いまいちはかれない。
それがどうにも気持ち悪く、苛立ちを覚えてしまう。
「まぁ、そうカリカリするな」
岳の胸のうちを見透かしたように、貴久が穏やかに言う。
「お前が、戸惑う気持ちは分かる。物凄く気まずいのもな。けど、ここで帰ってしまうのは勿体ないぞ。今夜は、かずさ和牛のすき焼きだ」
優一が、嬉しそうに頷いた。
「スーパーの貯まってたポイントで買ったの。1万2000円分のお肉よ。それじゃあ、準備しましょうか」
そう言って腰をあげ、台所へと向かう。千景も表情はそのままに立ち上がると、「手伝います」と言って、優一の後をついていった。その間に貴久は、傍らにあったカセットコンロを卓上に置き、ボンベ室の蓋を開けていた。
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