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2018年12月24日-4
「岳、ボンベを頼むな」
……貴久の頼みを聞かず、このまま家を出て行くこともできた。
貴久にしろ、優一にしろ、強要しているわけではない。むしろ、こちらに意思決定を委ねているようだった。
お前に任せる、と。
……我知らず、舌打ちがでた。
彼らの思惑に、自ら嵌りにいくようで癪だが、それ以上にこの場から逃げてしまうことの方が、腹立たしかった。
仕方がない。岳はあからさまに不機嫌な表情を浮かべてやりながらも、裏口の棚に保管されているカセットボンベを取りに向かった。
……何がどうなっているのか、いまだに状況が理解しきれていない。
貴久と優一は千景と接点を持った。わざわざ千景の通うジムを見つけ、彼に声をかけた。
そして千景はこうして、久我家を訪れ、岳と再びまみえた。
……なぜだ?
なぜ、こんなことになっている?
もう会わないと言ってきたくせに、なぜ千景はここにいる?
貴久たちはいったい、何を考えている……?
カセットボンベを持ってリビングに戻れば、こたつの上にはカットされた野菜や焼き豆腐、結び白滝が用意され、千景がそのそばに薄切りの牛肉を並べた大皿を置いたところだった。
またもや千景と目が合ったが、気まずげに逸らされる。それから彼はまた、台所へと消えていった。
「後でゆっくり、皆川くんと話をしなさい」
貴久にカセットボンベを手渡せば、心情が顔に出過ぎていたのだろう。苦笑を浮かべながらも、彼は教師然とした口調で言った。
「この前、えらく落ち込んでたお前を見て、老婆心ながら勝手に行動させてもらった」
……そんなことだろうと思ってはいた。深いため息が吹き出る。
「……余計なことしやがって」
「そりゃあ、したくもなるさ。お前の話を聞く限り、どうにも納得できなかったからな。だから、皆川くんと知り合えて、本当に良かった……お前と彼のためにもな」
「何……―」
「ゆう、冷蔵庫のビール、忘れずにな」
貴久の言葉に、台所から「はーい」と、優一のウキウキとした声が返ってくる。それから貴久も嬉しそうに「シメはうどんだぞ」と言ってきた。
いつもと変わらないのほほんとした雰囲気に、岳は脱力し、再び大きなため息をついた。
……まぁ、いい。言いたいこと、訊きたいことは山ほどあるが、まずは食事だ。腹が減って、しょうがなかった。
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