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2018年12月24日-5
青い炎が揺らぐカセットコンロの上で、すき焼き鍋に敷きつめた具材がぐつぐつと煮えている。割り下がほどよく絡まって醤油の色をまとい、しんなりとしたそれらは、食べ頃だと主張するようにひょこひょこと飛び跳ねていた。
立ちのぼる湯気は、割り下の甘辛い匂いをふわりと漂わせている。食前だと食欲をそそられ、最中には食が進み、食後にはその余韻に浸れる。魅惑の匂いだ。煮えた肉や野菜を胃の腑におさめていくうちに、その匂いが全身にくまなく広がっていくようだった。
今夜のすき焼きは、良い肉を使っていることもあって、特別に美味かった。
「我が家はね、貴久が鍋奉行なの」
箸で挟んだ焼き豆腐をふうふうと冷ましながら、優一がのんびりとした口調で、千景にそう説明した。そこに貴久が「ほら、あまり煮ると固くなるぞ。ほらほら遠慮せずに」と言いながら、各々の取り分け皿に煮えた具材をぽいぽいと入れていく。食べても食べても皿の中身が減ることはない。
けれども、配分量やペースはちょうどいい。貴久はこちらの様子を見ながら、鍋の中身をさばいていくのが上手かった。
腹が膨れ、箸が進まなくなれば、煮えた物を割り振ってこない。逆に、まだまだ足りないと言わんばかりに皿を空けていれば、遠慮なく与えてくれる。その合間に自分の食事も済ませていき、かつ、生の具材を鍋に投入し、煮え具合を管理する。優秀な鍋奉行と言っていいだろう。
そんなふたりに対し、千景は「ありがとうございます。すごく美味しいです」と礼を言いながら、すき焼きに舌鼓をうっていた。恐々としていた表情は幾分柔らかくなり、爽やかな笑みが浮かんでいる。その様子を時々盗み見しながら、岳は黙々とすき焼きを食し、ビールを飲み続けていた。
団欒とした雰囲気の中、自分だけが依然、非常に居心地が悪く、疎外感を覚えている。
そのせいで、緊張のような苛立ちのような、何だかよく分からない感覚が、胸のうちに居座っていた。
それに、千景も時折こちらを窺っては、何か言いたげにしているのも、気になって仕方がなかった。彼はその度に、それを掻き消すように優一たちに笑みを向けるのだが、それと連動するように、岳の心中にある曖昧模糊な感覚は増殖していた。
「あの、全部任せっきりですいません……」
「いいよ、いいよ。皆川くんはお客さんなんだし、もっと好きに食ってくれ」
「そうよ。俺たちみたいに四十路を過ぎると、霜降りのお肉はあまり食べれないから、たくさん食べてね」
「……ありがとうございます」
「岳、君もよ?」
優一の言葉に、岳は何も応えなかった。その時また、千景のさりげない視線を感じ、増殖速度が上がった。仏頂面でビールを飲み干せば、千景がすかさず瓶ビールを手にしたのが見えた。
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