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2018年12月24日-6
頭にカッと血がのぼった。それから、ダーツの矢を射るかのように言葉が飛び出した。
「いい。自分でやる」
千景から瓶をひったくり、岳は自分のグラスにビールを注いだ。勢いあまったせいで、グラスの半分以上が泡で占められたが、構わなかった。ぐいっと泡を飲み、口元を拭った。
視界の端で、千景が傷ついた表情を浮かべていた。それに気づいた瞬間、頭の中が一気に冷えていくのを感じた。
やってしまった。岳は後悔した。
けれどもその一方で、燃え滓のように残った憤りが、胸のうちで細々と煙を上げていた。
……なんで、アンタがそんな顔をするんだ。
そっちだって、俺を突き放してきただろうが。
食卓はしん、と静まり返った。すき焼き鍋がぐらぐらと煮える音だけが、硬い空気を揺らしている。優一は丸っこい目に戸惑いの色を滲ませ、貴久も少しばかり張りつめた表情となっていた。
数秒して、千景はさりげない笑顔を取り繕った。それから静かに箸を置くと、「すいません」と謝罪し、項垂れるように頭を下げた。
「俺、もう帰ります」
「待って、皆川くん。それはダメ」
立ち上がろうとした千景の手を、優一が慌てて掴んだ。存外、その力が強かったようで、千景は表情を歪めた。
それに構うことなく、優一は千景の顔をまっすぐに見据えた。
「何も言ってないうちに、怯んで逃げるのだけはダメ。……ちゃんと、誤解を解かなきゃ」
……誤解?
どういうことだ。優一を見れば、彼はなぜか申し訳なさそうに、へなへなと眉尻と口角を下げた。
「だから、その……、俺から話すわ。いいよね?」
意味がわからなかった。
なぜ、優一がしゃしゃり出てきた? いったい、何を話すというんだ?
優一から断りを入れられた千景は、気まずそうに目を伏せながらも、再び腰をおろした。それから、肩を丸め、正座した自らの膝に視線を落とした。
……この家で千景と再会してからずっと、違和感を覚えていた。
これまで自分が接してきた千景と今の彼とでは、まったくと言っていいほど雰囲気や様子が違う。
いつもはどこか飄々としていて、口調や仕草に大人の余裕と色っぽさを感じさせ、涼しげな微笑を絶やさない男だというのに。
目の前にいる彼は、なんとも心許ない。
まるで別人……、二重人格者のようだった。
優一は小さく息を吐くと、おずおずと岳を見た。
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