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2018年12月24日-7

「……皆川くんね、岳と最後に会った時に、君のスマホを見たんだって」 「……なに?」 「あ。見たって言っても、ほら、画面に表示される通知のことよ。……岳、覚えてるかしら。あの晩、俺がメッセージを送ったでしょ? 結局、返事くれなかったけど」  まったく、覚えていなかった。「それが?」 「それで、勘違いしたんだって。文面からして岳と親密そうだったから、恋人じゃないかって」 「は?」  思わず、素っ頓狂な声が出た。眉が急激に蠢く。  優一が、俺の恋人?  あまりにも気色の悪いことを言われ、鳥肌が立ちそうだった。いったい、どんなメッセージだったから、千景はそんな有り得ない勘違いをしたというのだ。  優一はウールパンツのポケットからスマートフォンを取り出し、操作し始める。 「えっとねぇ……、『次はいつ会える?』、『会えないなら電話したい』、『話したいことがあるの』……うーん、確かに恋人っぽい?」 「俺にはそんなメッセージ、送ってくれないよな」  岳たちのやり取りを食事をしながら静観していた貴久が、いささか拗ねた口調で口を挟んできた。優一が微苦笑をこぼす。 「だって、送る必要ないじゃない。一緒に暮らしてて、電話しなくても声が聞けて、何でもかんでも喋ってるんだし」 「たまには、晩飯の献立以外のメッセージを送ってきてくれよ」 「ふふふ、考えておくわーー」 「おい」  脱線するふたりの会話に割り入り、岳は優一を睨んだ。「……アンタのせいか」  優一が、ばつの悪そうな表情を見せてきた。 「……ごめんなさい。そうだったみたい」  くらりと、眩暈がした。  何だよそれ。……おのずと大きなため息が出た。文面を読み聞かされても、いまいち思い出せなかったが、そのせいで千景から唐突に距離を置かれてしまったのだと、ようやく分かった。怒っていいのか呆れていいのか、どうすればいいのか。ヒクつくこめかみを押さえ、岳はだらりと項垂れた。 「本当にごめんなさい。あの時、キッチンのリフォームについて、岳の意見も聞きたくて……、焦ることないのに、なんだか気持ちが急いちゃって。それがあの、意味深っぽいメッセージになっちゃったのよ……」 「いやっ、違う……、俺が悪いんです」  千景が慌てて、優一の弁解を否定した。「俺が久我くんのスマホを盗み見した上に、久我くんに何も訊かずに勝手にそう思い込んだからで、優一さんは何も悪くないです」 「でも……」 「まぁ、もういいじゃないか」  この調子だと、堂々めぐりが始まると思ったのだろう。ふたりの会話を遮るように、貴久は明るく言い、優一のグラスにビールを注いだ。 「これで、誤解は解けたんだ。そういうわけで皆川くん。岳はフリーだから、安心してくれ」 「先生!」  何を言ってくれたんだ。動揺する岳に対し、貴久は鷹揚に笑いながら、ゴクゴクとビールを飲んだ。

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