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2018年12月24日-9
「アンタはどうする?」
そう訊ねれば、千景はハッと目を丸くした。こちらの意図を理解したのだろう。千景はそれから、優一と貴久にちらりと目を向けた。すると優一は、いまだ申し訳なさそうにしながらも控えめな笑みを返し、貴久は穏やかな表情で頷いた。
「……俺も、そうします」
千景の返事を聞き、岳は自分と千景の上着を取りに行った。「あの、食器は……」「いいの、いいのよ。俺が片づけるから、気にしないで」「すいません、ありがとうございます。とても美味しかったです」「皆川くん、今日はウチに来てくれてありがとう。楽しかったよ」などという会話が聞こえてくる。名残惜しそうだが、嬉しそうでもあったので、自分でもどうしてか分からないが、何度目かの舌打ちが出てしまっていた。
岳と千景が、家を後にした。岳はむくれっ面で、千景はガチガチに緊張した面持ちで。
玄関先での見送りを終え、貴久は優一と共にリビングに戻った。カセットコンロの火は消え、すき焼き鍋には、ちょうどふたり分ほどの煮えすぎた肉や野菜が残っている。それらに手をつける余裕が、不惑の胃袋にはなかった。なので、底の深い皿に移し、明日の朝食にすることにした。
けれども、ビールに関しては別腹だ。ふたりは瓶に残っていたビールを互いのグラスに注ぎ、再び飲み始めた。
しばらくして、優一がつと憂いを帯びた吐息を洩らした。それから、血色の良い頬を両手で覆いながら「ううう」と情けなく唸りだした。
「……あの子たち、大丈夫かしら」
不安げな声色だった。「上手くいってくれなきゃ、俺まで一生後悔しちゃう。責任感じちゃうわ……」
「まぁ、大丈夫だろ」
貴久はそう言って、ぬるいビールを呷った。優一が心配する気持ちも分かるが、これからのことは岳と千景次第だ。自分たちができることはすべてやった。後は、ふたりを信じるしかない。
……大丈夫だ。ふたりとも恐れず、本当の自分をさらけ出せばいい。そして、互いに受容すればいい。
それが恋であり、愛なのだから。
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