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2018年12月24日-11

 千景がふいに立ち止まった。岳もつられて、足を止める。  彼の視線の先には、小さな公園があった。  幼い頃、優一とよく遊んでいた場所だ。灌木に囲まれた260平米ほどの敷地には、滑り台と砂場、ブランコ、鉄棒、それからベンチが一脚だけ設置されていた。  敷地内に植えられた木々の落ち葉が、風に吹かれて不恰好に舞っている。最後に清掃されたのは、かなり前だろう。寂れきっていた。 「寒いけど、座って話しない?」  千景がふらりとこちらを見て、そう言った。ほんのりと紅潮した頬には、これまでずっと貼りついていた硬さはない。むしろ、柔らかさを帯びているように見えた。  その表情に、岳は最初、驚き戸惑った。  けれども次いで、それが意味するところを自分なりに解釈した瞬間、胸が暖かく締めつけられたのを感じた。不覚にも目の奥に、じわりと熱が迫りあがってくる。  そのことに岳はさらに驚きながらも、熱を引っ込めんと息を深く吸った。冷たい空気が、体内にたくさん入ってくる。身が震え、おかげで熱も引いていった。  ……この人は、俺の過去を知った。  あの男と、お袋のことを。その後の俺についても。  それでも尚、そんな表情を向けてくれる。  嫌悪や憐憫などいっさいなく、好奇的でもない。ただただ静穏な表情を。 「君の口から、話が聞きたい」  千景は穏やかに、けれどもはっきりと言った。「それに良ければ、俺の話も聞いてよ」 「アンタの話?」 「うん。俺もずっと、隠してたことがあって……」  途端にまた、決まりが悪そうな表情になると、千景はこちらの返事を聞かずに公園へと入っていく。……いったい、何を隠しているのだろう。岳は千景のあとを追った。  敷地内の古びたベンチに、ふたりは腰をおろした。軽く仰げば、地上のイルミネーションほど賑やかでも華やかでもないが、砂金のように純粋な煌めきを放つ星々が、(こい)(あい)の空に広がっている。薄雲がかかった月は、爪切りで切り取った爪ほどに欠け、まろやかな黄色に光っていた。 「……長くなるけど、聞いてくれるか?」  そう訊ねれば、千景はゆっくりと頷いた。……岳は改めて、覚悟を決めた。深々と息を吐き出し、当時を振り返り始める。 「俺が、アンタを襲った日。あの日に、親父が刑務所から出てきた……ーー」

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