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2018年12月24日-13
「俺の元カレはさ……いや、彼氏だと思ってたのは俺だけだったんだけど、何人も恋人がいるような人だったんだ」
あまりにも衝撃的な告白に、岳は言葉はおろか声すら出なかった。
自分が今、どんな顔をしているのか、よく分からなかったが、「まぁ、そんな顔になるよな」と言わんばかりに、千景は眉を垂れ下げる。
「……俺、大阪の大学に通ってたんだけど、相手とは水泳部で知り合ったんだ。向こうはコーチで、俺はその教え子で。当時は何もなかったけど、卒業した翌年に部活のOB会で再会して、何度かふたりで食事に行くうちに付き合うようになって……」
けれどもその半年後に、男は千景の前から忽然と姿を消した。大学を辞め、現在はどこで何をしているのかは不明だが、ただひとつ分かっていることがあった。
「元カレ、当時1年生の女子部員を妊娠させたんだ。それが発覚して、逃げたって言われてる。しかも、その子も俺も数いる浮気相手のひとりで、本命は他にもいたんだけど、その人のことも捨てたらしくて……地獄だったな、あの時は」
……脳のどこにそれがあるのか知らないが、発声を司る機能が停止したかのように、岳は依然、何も言えなかった。
けれども、何かを思い、感じることはできる。あまりにも腹立たしくて、表情が険しくなった。自らの千景への愚行を棚に上げることになるが、岳は今、自分のすべてを以てして、男を軽蔑していた。
「馬鹿みたいだろ?」
千景は自嘲気味に、それでいて寂しげに笑っていた。
「これまでずっと水泳一筋で、恋愛したことなかったし、クローゼットで出会いもなかったから、大学時代に好きだった人と付き合えて、恥ずかしいくらい浮かれてさ。向こうは俺を騙して、ただの都合のいい相手としか思ってなかったのにな。強引だけど面白くて、頼りになるところに惚れたけど、本当は無節操で不誠実な人だった。そんな相手の本性を見抜けないまま、俺だけがどんどんハマっていって……裏切られたことがすごく悲しくて、辛くて、恋愛するのが怖くなったんだ」
だから千景は、恋人を作らず、一夜限りの関係を色んな男と結んできたのだろう。
「……アンタも、傷ついてきたんだな」
ようやく、言葉を発することができた。本当は、ここにはいない下衆男へありったけの罵詈雑言を吐き出したかったが、自分にとっても千景にとっても不毛だと思い、やめた。自分にしては珍しく、理性が働いた。
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