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2018年12月24日-16

「俺は親父と似てる。キレると何をするか分からねぇし、そのせいでこれまで、色んな人に迷惑をかけてきた。俺は自分が嫌いだし、怖い」  父親が憎い。あの男のことを考える度に新鮮な怒りを覚え、唾棄(だき)してきた。  けれどもそれ以上に、岳は自分自身を恐れ、嫌厭(けんえん)していた。  高校時代に起こした暴力沙汰を機に、父親との類似性を認め、以降、何度も改めようとしてきたが、結局はそれを免罪符とせんばかりに、職場では同僚と殴り合い、千景に乱暴をはたらいた。  過ちを犯す度に密かに猛省し、深い自己嫌悪に陥るにも関わらず、岳は罪を重ねてきた。  自分は、度し難い男だ。  そんな男を、千景は寛容な心を以って許してくれた。優一や貴久は長年、厳しくも優しく見守ってくれている。  けれども岳は、自分で自分を許せずにいた。  ……こんな自分が、千景と一緒になってもいいのか。  彼を不幸にしないか。  ……自信がなかった。 「そうだとしても」  灰色に靄がかる岳の胸に、決然とした千景の声が(あやま)たず飛び込んだ。 「俺は、久我くんのそばにいたい。親父さんに似ていたとしても、君は君だ。……もう、君を疑ったりしない。信じるから、久我くん自身のことをもっと知りたい」  千景は手袋を脱ぐと、素手で岳の両手を包んだ。少し汗ばんだ手のひらが手の甲に吸いつき、皮膚や肉に温もりがじわりと伝わってくる。  それと連動するかのように、胸の奥が激しく震えた。  今度は堪えられなかった。込みあげた涙が、はらはらと頬に流れていく。次から次へと溢れ出るそれは、外気に触れ、冷たくなって落ちていく。  自分は、決して泣き虫ではない。小さい頃から滅多に泣かず、物心がついてからは、両手で数えられるほどしか涙を見せてこなかった。  そのうちの一回が、横たわる母親の遺体を目にした時。  最近だと、千景を襲ったあの時だった。  そして今また、千景の真摯な言葉に心を揺さぶられ、嗚咽が止まらなくなっていた。  ……あんなに酷いことをして、深く傷つけたのに。  あの時にはもう、俺に惚れていて、しかも想いを深めたという。 「……分からない」  岳は咽びながら言った。 「俺は、アンタを傷つけた。これからも、傷つけることがあるかも知れない。それでも、アンタは……」 「俺だって、君を傷つけた」  千景は、眉をハの字にしながら微笑んだ。何のことか、訊くまでもなかった。 「これからもお互いに、傷つけて、傷つくことがあるだろうな。……だからさ、そんな時はいっぱい話をしよう? ちゃんと言葉にして、伝え合おうよ。俺は君と、そうありたい」

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