80 / 99

2018年12月24日-18

 千景の自宅に着いた瞬間、ふたりはまた全身を絡ませ、口づけに没頭した。  玄関でマフラーやアウターを脱ぎ、リビングのベッドに雪崩れ込んでから、互いに服を脱がし合い、裸になった。暖房をつけたばかりで、暗い室内は冷蔵庫のように冷えている。それでも、相手の素肌に早く触れたくてしょうがなかった。  ふたりは布団にくるまり、きつく抱き合いながら、深いキスを繰り返した。唇を吸い、舌を舐め、混ざりあった唾液を飲んでいるうちに、頭の芯が鈍く痺れ、ぼうっとしてくる。身体の奥からぼんやりと生まれた熱が全身を巡り、どうしようもなく昂ぶってきた。 「……あの日から、他の誰かとした?」  獣じみた口づけの合間に、吐息まじりの声で千景が訊ねてきた。まぶたをうっすらと開けば、彼もまた薄目で岳の双眸を見つめていた。  千景はきっと、察しているのだろう。いくら身体を洗い、汚れや匂いを落としても、その名残を感じとったのかも知れない。欲情した彼の瞳は少しだけ、悲しげに潤んでいた。  素直に答えれば、千景をもっと悲しませることになるだろう。  それでも岳は、正直に言った。 「風俗の女とクラブで声をかけてきた女と、何人か」 「……そっか」  案の定、千景は傷ついた表情で目を伏せ、けれどもすぐにまた、岳を見つめてくる。 「男とは、寝てないんだな」 「……男とヤれば、嫌でもアンタを思い出すだろ」  岳は言い、汗ばみだした千景の裸体をさらに抱き寄せた。 「けど、アンタを忘れるために女とヤッても、ダメだった……暇さえあればアンタのことばっか考えて、苛ついて……、アンタに会いたかった……」  千景は、ふふっと苦笑を洩らした。それから、そっと唇を啄ばんでくる。 「……俺も、本当は君に会いたかった」  そして、ピアスの穴が空いた岳の耳たぶを触りながら、下唇をちろりと舐めてきた。 「これからは、誰とも寝ないで……俺とだけ、こういうことして……」  切々とした声だった。それが、岳の胸を深く貫いてきた。  千景の唇にしゃぶりつく。口腔を舌でねっとりと愛撫した後、ゆっくりと顔を離し、相手の目を見つめる。 「分かってる……俺はもう、アンタしかいらない。アンタを裏切るようなことは、絶対にしない」  浮気をした人間と、された人間が身近にいた者としては、それを徹底的に唾棄し、戒めとしなければならなかった。  大切な人を、どこまでも深く傷つける行為なのだ。そんな不誠実なことをしてみろ、あの男や千景の元恋人そのものになってしまう。自分は決して、そうなってはいけない。  千景の美しい身体を、おもむろに撫で回す。千景は顔をかすかに歪め、吐息を乱した。

ともだちにシェアしよう!