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2018年12月25日
ベッドの中で、裸のままぐったりとしながら、ふたりはべったりと抱き合っていた。
先ほどまでの熱く激しいひとときが嘘のように、静穏でゆったりとした空気が流れている。呼吸のリズムも緩慢としており、しっとりと密着した胸と胸がなだらかな伸縮を繰り返していた。身体は気怠く、頭の芯には眠気が溜まっており、微睡む準備はとっくにできていた。
けれども、そうなるのが惜しいほどに、岳は千景との抱擁に幸福を感じていた。
今この瞬間を、どうしても手放したくなかった。1ミリたりとも彼と離れていたくないと、心の底から思う気持ちを、眠ることで途切れさせるのが嫌だったのだ。
「まだ、寝たくない」と言えば、千景は蕩けたように笑った。それから「俺も」と囁いて、キスしてくれた。だから、ふたりとも明日は仕事だが、日付が変わろうとしている今も、じゃれ合ったり、ちょっとしたことを喋ったりしながら過ごしていた。
「ーー……ずっと、優一に嫉妬してた」
ふいに、胸のうちに浮かんだことがあった。千景の髪を撫でながら、岳はぽつり、ぽつりと述懐し始める。
「自分のことを受け容れてくれる人と幸せに暮らしてるあの人が、ずっと羨ましかった。俺には絶対手に入れられないもんだと思うとイライラして、あの人や先生にキツく当たることもあった……」
「……うん」
岳の首筋に額を擦り寄せながら、千景は話を聞いてくれていた。事を終えた後、ふたりでシャワーを浴びたため、彼の身体や髪からは、自分と同じシャンプーの匂いがする。それだけのことだが、胸がじんわりと暖かくなり、やわく締めつけられた。
「あの人らは、これまで色んなことを乗り越えてきた。……親父の件、祖父ちゃんと祖母ちゃんのこと、優一と俺のこと、自分らの世間体……その全部と逃げずに向き合った上で、一緒にいる。そんなだから、俺ひとりが取り残されてるみたいで、すげぇ惨めだった。劣等感、っつうの? そればっかになってた」
「……優一さんと大山さんは、強いよ」
千景は言い、岳の後頭部を両手で包んだ。やんわりとうなじを撫でられる。くすぐったいようで心地よかった。
「お互いを大切に想って、信じて、支えたいと思ってるから、そうなれるんだろうな」
そうだな、と返す。特に、弱りきっていた頃の優一を知っているからこそ、本当にそう思える。貴久は元よりしっかりとした人だが、優一はそうではなかった。貴久との出会いが、優一を変えたのだ。
千景はもぞもぞと顔をあげ、眠たげながらも真面目くさった表情を見せてくる。
「君もきっと、そうなれる。そうなろうよ。……えっと、その……、相手が俺で良ければ……」
「……何で、んな言い方すんだよ」
途中から、なんとも頼りなげに視線を揺らし、截然 としない物言いをしだしたのが、ムカついた。頬を軽く抓ってやれば、「うひゃっ」と小さな悲鳴をあげ、千景は顔を歪めた。
「ご……、ごめん……」
「謝んな」
「いたたっ……痛いって……」
抓った頬をぐにぐにと引っぱる。が、痛がる千景を見て、岳ははっとその手を離した。
こういうところが、いけないのだ。ちょっとしたことですぐに腹を立て、手を出してしまい、人を傷つけてしまう。怖がらせて、悲しませることだってある。
自分だって後悔し、自責し、そして卑屈になっていく。
それではダメなのだ。
変わると決めたのだ。……大切な人のために。
不自然に赤くなった千景の頬に、そっと触れる。癒すように撫でれば、表情は幾分緩んだものの、恐々とした眼差しを向けられる。
……色香に溢れ、涼やかな雰囲気をまとう好青年であることに違いない。
加えて如才 がなく、話し上手でも聞き上手でもある。きっと色んな人から好かれ、営業マンとしても優秀なのだろう。
けれどもその一方で、言動や仕草から自信のなさが垣間見え、人の顔色を窺ってはおどおどしているところもある。あまりにも優しすぎて、心を砕いてばかりいるせいで、どつぼにハマっていくタイプだと思う。
それこそが、千景の本質なのだ。
だからこそ、公園での語り合いで与えてくれた言葉や温もりのひとつひとつが、彼の精一杯の勇気と覚悟の表れだったのだと、改めて思わされた。
……この人に、こんな目をさせてはいけない。
この人には、俺のそばで笑っていてほしい。
「アンタは俺のもんだ」
その一言に、千景はまず、目をパチクリさせた。けれども程なくして、張っていた糸が弛むように、顔いっぱいに笑みを浮かべた。とても幸せそうだった。それから岳の手をやんわりと握り、頬ずりしてくる。
「何があっても、アンタを絶対に離さない」
「うん……」
「信じてくれ」
「うん……嬉しい……」
おのずと視線が絡み合う。千景の目がゆっくりと閉ざされると、なだらかな弧を描く彼の唇に淡い口づけを落とした。
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