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2019年2月1日-3
マンションが見えてくる。岳からは昼頃に、「197時半にはそっちに行く」とメッセージがあった。今日は彼も仕事で、17時頃に作業を終え、一旦は駒込の自宅に帰っているはずだ。それからまた家を出て、こちらに来てくれる。おそらくもう、マンションの前で待っているだろう。
そう思うと、歩調が速くなった。寒い中、岳を待たせたくなかったし、なにより彼に早く会いたかった。
マンションまで、残り数メートルの距離になる。
外灯や、マンションから発せられる明かりで照らされたエントランスの入り口前に、縦に長い人影が見えた。
黒いダウンジャケットにダークグレーのネックウォーマー姿の岳が、虚空をぼんやりと見つめながら立っていた。
千景の顔に笑みが灯る。さらに早足で岳のもとへ向かえば、足音と気配に気づいてか、彼も弾かれるようにこちらを向いた。
……おや、とわずかに目を見開き、笑みを消す。
が、千景はすぐにふわりと微笑み、岳のそばで立ち止まった。
「よぉ、お疲れ」
岳が言った。「ありがとう、君も」と応え、千景はレザーの手袋を脱ぎ、素肌が晒された彼の冷たい手を、やんわりと握る。
「何かあった?」
そう訊ねれば、岳の昏い表情に硬さが加わった。彼はふっと目を伏せたが、それからすぐにまた千景の目を見つめてきた。
「……部屋で、話がしたい」
「あぁ、そうだな。そうしよう」
人がいなかったので、千景は岳の手を引いてマンションに入った。エレベーターに乗り、部屋へと向かう。
部屋の中も、室内とは思えないほどに寒かった。リビングの電気をつけ、「今日も出歩くのが嫌になるくらい寒かったな」とぼやきながら、暖房のスイッチを入れた。アウターを着たまま台所に立ち、ふたり分のコーヒーを淹れる。そして、浮かない表情でベッドに腰をおろしていた岳に、そのひとつを渡した。
しばらくの間、岳は黙ってコーヒーを飲んでいた。
そのとなりで、千景も無言でコーヒーを味わっていた。岳に話をするよう、促すことはなかった。彼のタイミングで話し始めるのを、千景は静かに待っていた。
……コーヒーカップの底が、うっすらと見えてきた時だ。
岳は深々とため息をつくと、重々しく口を開いたのだった。
「……親父が、俺と優一に会いたがってる」
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