2 / 72

善くんと誠くんの話2

―誠―  予報では、今年一番の冬型の気圧配置だった。  目覚めると障子の外がぼんやり明るくて、夜のうちに雪が降ったことがわかる。  嫌々ながらベットから降りると、冷えた畳に容赦なく足の裏の体温を持っていかれた。  冷たい。冷たい。冷たい。  石油ファンヒーターをつけ、温かい布団の中に急いで戻る。  しばらくしてファンヒーターがボッと点火すると、灯油の匂いがただよってきた。  冷えた爪先を指でつかむ。布団から出たくない。むしろ家から出たくない。頭からすっぽりかぶった布団の中で、スマートフォンの時計と睨めっこをする。  電車の時間まであと三十五分。さすがにそろそろ出ないと、電車に乗り遅れる。  洗面と着替えを済ませ、父さんの部屋にある仏壇に手を合わせた。何年も前から姿の変わらない母さんが、写真の中で微笑んでいる。 「学校、行ってくっからな」  深酒をして寝ている父さんに声をかけた。返ってくるのは、いつもいびきだけだ。  発車五分前に駅に着き、ホームの一番端っこに立っている中尾に声をかけた。 「おはよ。今日もクッッソさびぃな」  中尾は高校でできた友達だ。  金髪で、ライオンみたいな髪型をしている。顔だけ見れば上品に見えなくもないのに、じゃらじゃらとつけたシルバーアクセサリーのせいで、ものすっごくガラが悪く見える。おまけにヤリチンだ。ガラ悪二割、チャラ八割。  中尾はMMORPG(オンラインゲーム)をしていたスマートフォンから目を離し、俺をジトっと睨んだ。 「相変わらず来んのギリギリだな。バス通学、舐め腐ってるだろ。こっちは待ち時間、四十分もあんだぞ」 「ふーん。ゲームしてたら、四十分なんかあっという間だろ」 「気温一度の中でもか?」 「……俺なら、無理。せいぜい五分が限度だわ。山の子と違って、上品で繊細(せんさい)な体の作りしてるっけ」 「言ってろ」  他校の生徒が、俺たちを遠巻きに見ている視線を感じた。  俺たちの通う三和(さんわ)高校は、この辺りで一番偏差値の低い学校だ。改造制服の着用、髪の染色、飲酒喫煙、不純すぎる異性交友。警察に厄介にならない程度の揉め事なら残念ながら日常茶飯事。  もちろん真面目な人もいるけど、派手なやつらが目立つから、周りからはヤンキー校だと認識されているらしい。  俺はもちろん、真面目なほうだ。中尾に思いっきり嫌味を言われそうなので、口には出さないでおく。 〝まもなく列車がまいります。白線の内側まで下がってお待ちください〟  騒々しいホームに、駅員のアナウンスが聞こえてきた。ふと、駅裏の美容室の看板が目に入る。  しまった、走ってきたせいで髪の毛がボサボサだ。スマートフォンの画面を鏡代わりにしながら、乱れていた髪を整えた。

ともだちにシェアしよう!