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善くんと誠くんの話4

 三時間目が終わる頃、ピンポンパンポーンとやたら明るいチャイムが流れた。  静かに降っていたはずの雪は、いつのまにか地吹雪のように上へ下へといきおいよく舞っている。  俺には関係ないだろうと思いつつ一応耳をかたむける。 〝JRから、大雪により、午後の列車の運行を取りやめると連絡が入りました。三時間目が終わり次第、速やかに下校してください。十二時台の電車が今日の最終列車だということです。くれぐれも、乗り遅れることのないよう、注意してください。――繰り返します〟  電車の運休って、めっちゃ関係あるやつじゃん。  放送の途中なのに、いきなり教室の中が騒がしくなった。テスト前なのに遊びに行こうなんて声が聞こえて、俺には関係ないけど心配になってくる。  こいつら、無事に卒業までたどり着けるんだろうか。すでにクラスメートの四分の一は学校に来ていない。  十一時の電車に乗り、地元の駅まで戻った。びゅーびゅーと雪が吹き付けるなか、中尾の乗るバスの時刻表を確認する。 「あ、ちょうど二十分後にあるじゃん」  中尾が余白だらけの時刻表を指差して言った。数時間に一本しかないバスなので、二十分後でも「ちょうど」だ。  中尾のバスが来るまで待ち、見送る。  夕方からのバイトまではまだまだ時間がある。そのまま家に帰るのも嫌だし、すぐそばのショッピングセンターにある本屋に行くことにした。  本屋には、俺と同じように途中で放課になったであろう高校生がたくさんいた。  新刊を見てから文庫本のコーナーに向かおうとすると、ふとスポーツ雑誌のコーナーに立つ人が目に入った。  ぜんくんだ。  さりげなく――あまりさりげなくはなかっただろうけど、さりげなく近づく。ぜんくんが読んでいるのがバスケットボールの雑誌だということがわかった。  ワイヤレスイヤホンをつけながら雑誌に目を落としているぜんくんは、俺にまったく気づく気配がない。  なんでだろう、善くんのそばに行くと妙に胸が騒がしくなった。全力疾走した時みたいに酸素が足りなくて、指先がチリチリと痺れていく。聞こえるのは自分の鼓動だけだ。  声をかけるチャンスかもしれない。声をかけて何を言えばいいかわからないけど、ふだんは中尾もいるし、声をかけるきっかけもない。 「あの」  俺は斜め後ろから、ぜんくんに声をかけた。  イヤホンで聞こえないのか、聞こえないふりをしているのかぜんくんからの返事はない。  もう一度。 「すみません」  勢いあまってコートの袖を引くと、今度は顔を上げてくれた。視線がぜんくんと合い、慌てて手を離す。  ぜんくんはイヤホンを取り、自分を指差した。 「俺? ごめん、てっきり店員さんにでも声かけてるのかと思って」  聞こえてはいたけど、自分だとは思っていなかったらしい。  声をかけたものの、ぜんくんを目の前にしたら何を言えばいいのか、いっそうわからなくなった。どうしよう、一言目くらい考えておけばよかった。 〝友達になってください〟でいいのか?  そもそも、俺はぜんくんと友達になりたいんだろうか。

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