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善くんと誠くんの話6
―誠―
声をかけたのに固まった俺を見て、なぜだかぜんくんは笑った。真顔だと冷たく見える目が優しく細まる。息ができなくなるんじゃないかと思うほど緊張していた気持ちが、少しだけ楽になった。
ぜんくんはワイヤレスイヤホンをコートのポケットにしまい、元あった場所に雑誌を戻した。
「とりあえず、本屋出る?」
「う、う、うん」
乾いた口のせいで、声が上ずった。今度はぜんくんの口から、ぷっ、と息が噴き出る。
なんでそんなにおかしいんだろうと疑問に思っているうちに、二人でフードコートに向かう流れになっていた。
ピーコックでドリンクを注文し、空いていた席に座る。
俺は、ぜんくんを目の前にして、味のしないシュワシュワした液体を喉に流し込んだ。透明な蓋からは茶色の液体が透けている。味はしなくてもコーラで間違いないだろう。
ぜんくんはマフラーを外して背もたれにかけると、俺に問いかけた。
「それで、俺に何か用?」
「用があるわけじゃ、ないけど――」
言いかけたところで、マフラーのタグに〝cashmere100%〟なんて洒落た文字が書かれていることに気づく。一瞬読み方がわからなくて、カシミヤだと気づく間にたっぷり五秒はかかった。
そういえば翔嶺に通う幼なじみの須藤が、同じクラスにはイイところのおぼっちゃんしかいないと言っていた。そいつ自身も開業医の一人息子だから、自覚はなくてもボンボン中のボンボンである。
身のほど知らずに声をかけたけど、友達になるにしても、お育ちが違いすぎるんじゃないだろうか。
俺はコーラの味どころか、炭酸の泡さえ、もはやわからなくなった。
俺、なんでここにいるんだろう。
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