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善くんと誠くんの話9
ベッドに横になりながら、ラインの履歴を眺める。
善くんとやりとりを始めて一週間近くが経っていた。朝会う時は緊張して挨拶くらいしかできないけど、毎晩メッセージのやりとりを続けている。
というより、会話をとぎらせないよう、いつも中途半端なところで自分からやりとりをやめるようにしていた。なかなかの女々しさである。
今日みたいな土日は何をしているんだろう。
まさか、一日中勉強をしてるわけじゃないよな。たまには遊べる日だってあるかもしれない。そうしたら、もう少しまともに喋れるようになるはずだ。
夜、バイトが終わってから善くんに聞いてみよう。
『善くんは休みの日は何してるの?』
善くんからの返事は大体二十三時過ぎだ。勉強の区切りがつくのがそのくらいの時間らしい。
『だいたい勉強』
しばらくして、返事がきた。
『勉強以外は?』
『特に、何も』
あれ?今までとは違って、短文だし、素っ気ない。いつもは付けてくれる変なうさぎのスタンプも無かった。さすがに毎日連絡するのは迷惑だったかな。
いくつかやりとりをしたけど、あまりいい返事はもらえなかった。気のせいじゃなく本当に迷惑だったんだろう。
〝おやすみ〟とメッセージを送り、初めて自分から会話をやめにした。
週末がおわり、火曜日の朝。俺は駅のホームに降りると中尾に声をかけた。
「今日は先頭じゃなくて、最後尾に乗んねぇ?」
「なんでだよ。移動すんの面倒くさいから、ヤダ」
「なんでも。車両を動いたほうがいいって、俺の第六感が告げてんの。いや、守護霊さんのお告げかな」
「雑な設定に付き合うのも面倒くさいっけ、言う通りにしてやるよ」
最後尾といっても四両編成なので、たいした距離じゃない。嫌々ながらも中尾は付き合ってくれた。
車両を変えたのは、月曜日の朝、善くんに挨拶しても無視されたからだ。声をかけても、ノートを見たままで顔も上げてくれなかった。もう、挨拶することすら迷惑らしい。
なんだか情けなかった。自分だけ舞い上がって、迷惑がられていることに気づけなかった。とんだ浮かれ野郎だ。いっそ、春まで冬眠したい。熊にでも弟子入りしようかな。
電車にゆられながら、先頭車両に乗る善くんのことを考える。喉の奥を通り越して、みぞおちまでギュウっと痛くなった。
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