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善くんと誠くんの話10

―善― 〝それでは、止め。筆記用具を置いて、回答用紙を裏返してください〟 「よし、今回は……大丈夫」  期末考査が終わって、肩から一気に力が抜けた。教室を出て、大きく息を吐き出す。  ここのところ模試の点数が上がらなくて、父さんが苛々している。みんなが手を抜く校内のテストですら悪い点だったら、スマートフォンを返す約束をしていた。  そうしたら誠くんと連絡が取れなくなる。夜、誠くんとラインすることが俺の唯一の楽しみなのに。 「ん?」  教室を出たところで、ふと気がついた。最近、誠くんの姿を見てなくないか。メッセージのやりとりをした記憶もない。  ここ最近の記憶をたどりながら、廊下に並んでるロッカーからスマートフォンを取り出し、電源を入れる。ラインの履歴を確認して、さっと血の気が引いた。  なんだ、この、酷いやりとりは。  貴重な貴重な、大変貴重な誠くんからのメッセージに、俺は気もそぞろに返事をしていた。誠くんが最後に送ってくれた、〝おやすみ〟の言葉には、あろうことか返事すらしていない。  高校に入ってから心に余裕がなかったとはいえ、ひどすぎる。 「清水、危機迫った顔してどうしたが? 腹壊しそうなの?」  ロッカーを開けながら、誠くんの幼なじみでもある須藤が問いかけてくる。 「それならとっくに、トイレに駆け込んでるでしょ」 「だよな。友達が漏らすとこは見たくないっけ、そうして。で、どうしたの? ストレスで吐きそうなの?」 「そのノリ、引きずらなくて大丈夫。まこ――じゃない。好きな子に、ここ最近冷たくしてたことに気付いて、吐きそう」 「やっぱ吐きそうなんじゃん」  須藤は大げさに肩をすくめて、鞄に教科書を詰め込みはじめた。紙の擦れる耳障りな音が頭の奥にまで響いてくる。 「吐きそうなので、合ってた」  胃薬あったかな? いっそ頭痛薬でもいい。もし見当たらなかったら、ドラッグがわりにオーバードーズしてそうなやつにもらおうか。  玄関に向かいながら鞄をさぐっていると、いきなり首の後ろが冷たくなった。 「ひっ、つめたっ」 「俺からの愛情」  須藤が冷えピタを貼ってくれたらしい。剥がれないよう、手のひらで押さえる。 「あんま薬に頼るの、良くないぞ。まぁ、考査期間中の清水は何言っても聞いてないからな。友達やめたくなるレベルで塩対応」  階段を一段飛ばしに降りて、須藤は振り向いた。じとっというか、ねちょっとした目で見てくる。 「そんなひどい?」 「本気で聞いてるなら、入学してからの所業の数々をこんこんと説明してやろうか?」  わざわざ階段を戻ってきそうないきおいの須藤を手でなだめた。むしろ、もうすでに一段上がっている。 「大丈夫。説明してもらわなくても、須藤以外に友達ができない時点で、自分がおかしいことには気づいてる」 「気づいてるならよし」 「いいんだ」 「ま、好きな子を怒らせたなら、土下座することだな。ついでに俺にも土下座しろ」  ぴしっぴしっ、と床を指差す須藤を訝しげに見ながら、同級生が通りすぎていく。  〝やっぱりうちの学校の特進の人って、頭おかしい人多いよね〟というこそこそ声が聞こえてきた。同じクラスだからって一緒にされるのは心外だ。 「謝って許してくれるなら、即行で土下座するけど、須藤にはしないからね」 「え、俺にもしろよ。いや、されたら困るからしなくていいけど」  一人漫才をしている須藤はひとまずおいておく。  ラインの画面を開き、すばやく誠くんにメッセージを送った。

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