11 / 72
善くんと誠くんの話11
―誠―
バイトが終わり家に帰ると、善くんからメッセージが届いていた。内容を確かめる前に、電話がかかってくる。善くんだ。
どうしよう、どうしよう。
たいして広くもない部屋をうろうろして、なぜか電話に出ずにファンヒーターのスイッチを入れる。押すところはそこじゃない。
何秒か悩んだ後、電話に出た。
「ぼっ、もっ、もしもし」
「ぼって何?」
電話の向こうから、見なくても笑ってるとわかる柔らかい声がする。電話を通しているからか、直接聞く時よりも落ち着いた声だ。
もう一回、善くんの声が聞けた。
胸がとくとくと鳴っている。気持ちに蓋をしようとしても、もう手遅れみたいだった。
「なんか、用?」
電話をもらえて嬉しいのに、態度に出さないように気をつけた。何を言われるかわからないから、ほんの少しの沈黙が怖い。
「誠くんに、避けられてるような気がして」
善くんが静かに言った。避けられてるのは自分だと思っていたので、なんでそんな発想になったのか疑問で、言葉が出てこない。
「メッセージ、返さなくてごめん。期末考査で余裕なかったんだ。点数悪かったらスマホ返す約束、親としてたし」
考査が終わってすぐ連絡をくれる程度には、俺を気にかけてくれているらしい。
特別なんじゃないかと、浮かれそうになる気持ちを落ち着かせる。男同士だし、善くんに友達以上の気持ちなんてない。絶対ない。
「そうだったんだ」
落ち着かせようとするあまり、一言しか言えなかった。
「避けてたの、それが理由じゃなかった? 勘違いしてごめん。じゃ、電話切るね」
気まずそうに笑う善くんを引き止める。
「待って。避けてた理由、冷たくされたので合ってるっけ」
何か言わなければ。
でも、好きだなんて変なことを言ったら、気持ち悪がられる。今度こそ本当に避けられるかもしれない。
ともだちにシェアしよう!