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善くんと誠くんの話12
「嫌われたと思って、顔合わせるのつらくなった」
これくらいなら言っても変じゃないだろう。善くんは、困ったような声で言った。
「ん〜……どうしよう。都合よく、勘違いしそう」
「勘違いって、どんな?」
「誠くんが俺のこと好きなんじゃないかって。やり取りする前から俺のこと、時々見たりしてたでしょ? ああいうの、誠くんは意識してなくても、勝手に好かれてると思い込む人、俺以外にもきっといるよ」
非難してるわけじゃなく、心配してくれているらしい。うわ、見てるのバレてた。それに、全然勘違いじゃない。
「あと、トンネルの中で、反射するガラス越しに見てきたりとか。最初は乗り降りの時に邪魔だとかで睨まれてるのかと思ってたけど、ライン聞かれたりすると、嫌われてはなかったのかなって」
「あー……」
もっとやらかしてたかもしれないけど、それ以上は言わないでほしかった。刑事に追い詰められる犯人の気分はこんなんだろうか。
悩んだところで、ごまかしようがない。まさか、善くんが言ってたみたいに、気に食わないから睨んでたと言うわけにもいかない。別の意味で友情にひびが入る。
善くんはうだうだしてる俺を待たずに答えを出したらしい。
「やっぱり、俺の勘違いだよね。誠くん、男が好きってわけじゃないでしょ。小さくても弾力がある胸の方がいいって力説してたし。はんぺんくらいの柔らかさだったっけ?」
「へっ? はんぺん?」
確かに、女はロリで巨乳がいいと言う中尾に対して、めっちゃ力説してた記憶がある。
うっわ、はずい。訳のわからねぇ話してたの、聞かれてたのか。
入るための穴を掘る算段をしていると、善くんはもう一度寂しそうに笑った。
「じゃあ、おやすみ。勝手に思い上がった俺が言うのもおかしいけど、他の人には誤解させないように気をつけてね」
「待って……っ」
電話を切ろうとする善くんを、慌てて引き止める。引き止めるのに必死で、頭の中は真っ白なまま口だけが勝手に動いた。
「変なこと、言っていい?」
「うん?」
「俺、善くんのこと、変な目で見てる」
「大丈夫、わかってるよ。もう声かけたりしないから、安心して」
善くんの声は、子供をあやすみたいに優しい声だった。俺の伝え方が下手すぎて、当たり前だけど、まったく伝わっていない。
「じゃなくて、変な目って、いかがわしい目で見てるってことで――」
そこまで言って、後悔した。
頭の中が一気に冷静になる。もう少し言い方があったんじゃないだろうか。はんぺんみたいな胸やら、いかがわしい目やら、俺の言葉の選び方は間違っている。
「いかがわしい目って、具体的には?」
「そ、そこ、深掘りする?」
「するよ。けっこう、大事なとこ」
善くんの声に笑いが混ざり始めた。誤解はとけたらしい。安心はしたものの、変な方向に話が進んでないか。
「深掘りすんなて。なんとなく、わかるろ」
「俺が思ってるのと違ったら嫌だから、教えて」
甘えるように言われて、答えなきゃいけない気分になってくる。
「む、無性に、触りたくってたまんなくなる。って、平気で言えるほど、俺、神経図太くないからね?」
「それって、夜――」
善くんが何か言っていたけど、かまわず電話を切った。何分か巻き戻ってくれたら、友達じゃない意味で好きとか、もうちょっとマシなことが言えたのに。
いかがわしい目って、俺は何を言ってるんだろう。
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