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善くんと誠くんの話14
中尾は相変わらずゲームに視線を落としたまま、こちらを見る気配はなさそうだ。
何を考えているのかうかがうように善くんを見ると、柔らかな視線とぶつかった。ずっと俺のことを見ていたらしい。
真顔だと冷たく見える目が、優しく細まる。俺だけに見せてくれる表情なんじゃないかと、思い上がりそうになる。
愛おしそうに指を撫でられ、そうだよ、と言われている気がした。おずおずと指を伸ばすと善くんは恋人つなぎで握り直してくれる。
俺はにやけそうになる顔を必死で引き締めた。
そういえば、ちゃっかり手なんて繋いでるけど、俺ら別に付き合ってるわけじゃなかった。
善くんはこの関係をどう思ってるんだろう。
空いている左手でスマートフォンを取り出そうとするが、うまく取り出せない。
善くんはスマートフォンを貸してくれた。同じようにメモ帳に文字を入力する。
『俺ら、友達以上の関係ってことで、いいの?』
『友達以上って、おかずにするような関係?』
「なっ」
声が出そうになって、中尾がいることを思い出した。善くんとの関係が中尾にバレたら、いろんな意味でしんどい。
それにおかずどころかメインディッシュにしていたので、まったく否定できなかった。
「嘘、嘘」
善くんが耳元でささやいた。メモ帳に文字が書きたされる。
『友達以上って、恋人ってことで合ってる?』
もう文字を入力する心の余裕はなかった。何度も小さく頷いて、合図する。
善くんも少しくらいは不安だったらしい。
安堵した表情の善くんにキュッと手を握られ、果物をお腹いっぱい食べたような甘酸っぱい気持ちになる。
電車の速度ががくんと落ちた。窓の外を流れる景色がゆるやかになる。
〝次は――駅に停まります。車内の暖気運転を行なっているため、扉は手で開けてお降りください〟
結露で曇った窓ガラスの向こうではしんしんと雪が降り続いている。
誰かが扉を開けると、一気に冷たい空気が足元になだれ込んできた。濡れた床をキュッキュッと長靴で歩く音がする。
この町に本格的な冬がおとずれるのは、これからだ。
―END―
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