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森孝くんと結しゃんの話1
中尾森孝と小林結人の話。
―森孝―
俺は、二つのことでイラついていた。
一つ目は、付け焼き刃で〝勉強してやった〟ってのに、期末テストで三教科も赤点を取ったこと。
二つ目は、高校でできた親友であるまこっちが、いつの間にか男と付き合い始めたことだ。
付き合った相手は、バスケ部の合同練習や試合で顔を合わせたことのある清水というやつだ。他校の女子に騒がれてもスカしてる、いけすかないやつ。
まこっちは付き合ってることを隠しているつもりらしいが、全然隠せていない。
それに、俺のもんだと言わんばかりに挑発してくる清水がウザかった。別にまこっちなんか興味ないから、こっちにかまってくんな。
電車が来る前からにやけ面を隠せていないまこっちにゲンナリしつつ目をそらすと、自然とため息がこぼれてきた。
正直に清水と付き合ってるって言ってくれりゃ別の車両に乗るのに、下手に隠そうとするからタチが悪い。
最後尾から乗り込み、いつも座っているボックス席に向かった。無駄に長くて邪魔くさい清水の足を蹴り、進行方向と逆にどすんと座る。
「……後ろ向き酔うっけ、こっち座る」
まこっちは悩んだふりをしたあと、清水の横に腰かけた。毎朝の猿芝居ご苦労である。
苛立ち紛れに清水の足をもう一度蹴ると、まこっちが俺を睨みつけてきた。
「蹴んなて。わざとだろ」
清水が詐欺師みたいな、胡散臭い笑みを浮かべる。
「いいの、いいの。まこ、気にしないで。きっと中尾、運動不足で体力落ちてるんだよ。足も上げられないなんて、可哀想だね」
あきらかに俺を小馬鹿にしてる清水にムカついたが、朝からこれ以上、無駄な小競り合いをしたくなかった。
二人がいちゃつく前に、現実逃避をしよう。自己防衛は大事だ。
俺はβ版からやっているスマホアプリでオンラインゲームを立ち上げた。ログインして挨拶だけすると、メッセージボックスを確認する。
結しゃんからメッセージが届いていた。
『もりしゃんからもらった装備使ったらボス倒せたよ(*≧∀≦*)ありがとう♡』
メッセージだけでなく、アイテムも添付されていた。
ボスモンスターから貰えるレアアイテムだ。モンスター自体は弱いけど、倒すのに手間がかかるから最近は価格が高騰している。売ればいいのに、お礼としてくれるところが健気な結しゃんらしい。
『どういたしまして。また一緒にレベル上げしよ』
結しゃんは、ギルドマスターが勧誘してきた女の子だ。初心者のふりをしたサブキャラかと思いきや、本物の初心者らしい。
俺は時々、レベル上げやダンジョン攻略の手伝いをしている。
結人しゃんは反応とアバター がとにかく可愛い。純粋そうなアバターと話し方なのに、エロチャ――テレフォンセックスのチャット版での乱れ具体がたまらない。
男ウケしそうな可愛い子の中身はたいていおっさんだったりするが、深く考えないようにしている。
現実世界では、清純でかつエロい子は幻だ。校内で清純ぶってるビッチに見慣れた俺が言うんだから間違いない。
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