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森孝くんと結しゃんの話2

 その日のギルチャは、近々リアルで行われるゲームイベントの話で盛り上がっていた。流れが早いわりにそこまで重要な話でもないので、ミュートして結しゃんに個別でチャットを送る。 『今何してる?』 『人形の館の一階で、靴下履いたゴーレム倒してる*\(^o^)/*』  誰かに手伝ってもらえばいいのに、結しゃんは地道にレベル上げをしていたらしい。 『ワープ送るから来て。短い間しかできないけど、レベル上げしよう』  俺が送ったワープでゲーム中盤の街に飛んできた結しゃんは、慣れない街で右へ行ったり左へ行ったりしている。しばらくしてキャラの動きが止まり、チャットが送られてきた。 『着いたよ! もりしゃんどこ?』 『知ってる。目の前にいる』 『あ』  ようやく俺に気づいたらしい。結しゃんの視線がこっちを向いた。  結しゃんはこの前あげた花のカチューシャに、妖精を模したワンピースを着ていた。どっちも透けるような生地で、ふわふわと風にゆれている。  ストレートの黒髪に白い肌、黒目がちな目に、うるんと濡れた赤っぽい唇。あざといほど正統派なアバターの結しゃんには可愛い装備が似合う。  俺たちは、レベル上げするためにフィールドを移動した。  MPが半分まで減ったので、結しゃんのそばまで行って回復してもらう。自分でアイテムを使って回復するほうが早いものの、くるくる回りながら魔法をかけてくれる結しゃんを見ると、目と心が癒される。 『もりしゃんはイベント、行くの?』  結しゃんは星形の飾りの付いた杖を振りかざしながら言った。 『行くよ』 『イベントって、どんな感じ?』 『アイテムもらえたり、次にゲーム内で実装されるイベントを先に体験できたり、あとはオフ会したり?』  回復が終わったので結しゃんはくるくる回るのをやめ、体育座りをした。運営陣の謎のサービスで、パンツがちらりと覗いている。今はクリスマスカラーか。  俺は他の野郎から見えないように、アバターを動かした。よし、これで俺にしか見えない。 『ふぅん……』 『気になる?』 『なる』 『人多いし結しゃんは来ないほうがいいよ。ナンパ目的で来るやつもいるし』  電車の速度ががくんと落ちる。学校の最寄り駅に着くというアナウンスが流れてきた。  現実から逃避している間に、ストレスの根源――清水はいなくなっている。余韻に浸って手をグーパーしてないで、まこっちも一緒に降りとけばいいのに。 『じゃ学校着くから落ちるね。また後で』 『結もそろそろ落ちる。またね』  結しゃんも通学中らしく、いつも同じ時間にログアウトする。  本当は会社に着く時間なのかもしれないけど、深く考えると萎えるので考えないことにしていた。ハゲ上がったおっさんに貢いでるあげく、チャットエッチまでしてるって、想像しただけでしんどくて笑えてくるからだ。  やっと通常モードに戻ったまこっちは、喉チンコが見えそうなほど大きなあくびをした。 「ふぁぁ、学校だるっ。一限なんだっけ? サボれるやつ?」  あまりの変わりように、動画にでも残してやりたくなる。 「保健体育。俺もお前も、あと一時間休んだら終わるやつ」 「うっわ、じゃあ別の授業サボろ。確か現国とかあったろ。あと何時間サボれんだったっけ」 「知らね」 「だよなー」  まこっちは人に聞いておいて、自分のスマホで計算し始めた。俺の最近のイラつき具合なんて気づいてもいないんだろう。 「……清水にチクったら、朝の憂鬱な時間、なくなっかな」 「は?」  百年じゃなくてたった数ヶ月の恋なんだから、人のこと巻き込んでないで、さっさと冷めてくれりゃいいのに。

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