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森孝くんと結しゃんの話4

 男からターゲットにされた女の子は、恐怖で表情を固まらせていた。  周りの人たちは円を描くように二人を避けている。心配そうに見る人、面白がってるやつ。色々な人がいるが助けようとする人はいない。 「すみません、道開けてもらっていいですか」  俺は人混みをかき分け、二人のそばまで行った。  一方的にしゃべり続けるドゥヒィ野郎の手首をひねる。  爪の間には黒い垢がたまっていた。笑い方だけじゃなく、存在自体が気色悪い。 「いたっ、いたたたたっ」  ようやく、ドゥヒィッという笑い声が止んだ。  ドゥヒィ野郎は唾を飛ばして抗議してくる。 「なんだなんだなんだ、お前は。俺はこの子と楽しくお話していたのに、邪魔をするな。それにそんなチャラチャラした服装で来るなんて、女の子をナンパしに来たんだろう」  ついさっきまで女の子につきまとっていたドゥヒィ野郎は、自分に対して巨大ブーメランを放った。ベルトに乗る腹肉のせいか、ダメージに全然気づいちゃいない。 「ナンパしにきたって、そりゃ、てめぇだろ? 女に声かけてぇなら、最低限、身だしなみ整えてから出直してこいよ。お前、ダサい以前に、気持ち悪いんだよ」  俺の言葉を完全に無視して、ドゥヒィ野郎はまた唾を飛ばした。 「お前、ハンネはなんだ、ハンネは。ツイッターに暴力男だと晒してやる! ゲームランキング76位の俺様に盾ついたらどうなるか思い知らせてやるぞ。ドゥヒィッ」  ゲームランキング76位って、しょぼいにも程があるだろ。 「てめぇ、本当に面倒くさいやつだな。もーりーだよ、もーりー。晒してぇなら晒せ。こっちもドゥヒドゥヒ笑う気色悪い動画上げてやるから。誰もパーティ組んでくんなくなるぞ」  俺の名前を聞くと、ドゥヒィ野郎は得意げにドゥヒィッと笑った。 「ドゥヒィッ、もーりーなんて名前、見たことも聞いたこともないな。どうせ、たいしたやつじゃないんだろ。ほら、検索に引っかからない」  ドゥヒィ野郎は、俺の目の前に手垢だらけのスマートフォンを突きつけてくる。  不潔なやつ、本当無理。  あ、大事なことを言い忘れてた。 「ゲームの中では、えむおーあーるあいあーるいーで、 morire(もーりー)ね」  morireじゃ、モリレとしか読めない。深い意味があるわけじゃなく、登録する時に間違えただけだ。毎度弄られるのはシャクだが、β版からやってるから今さらキャラを作り直したくない。 「ふんっ、どちらにしろ、もーりーなんて聞いたことがないぞ。morire、morire――と。えっ、ドッドゥヒィ……!」  ドゥヒィ野郎はバレリーナのようにくるくる回り、うずくまった。リアルでこんな動きをするやつがいるとは。  周りの人の視線も珍獣を見る目からゴミムシを見るような目に変わっている。  同じくるくるでも、結しゃんの癒し系モーションと較べたら申し訳なくなるくらい、気色悪い。天使と地球外生命体だ。

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