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森孝くんと結しゃんの話5
〝なんなのアイツ〟
〝なんかあった時のために動画撮っておこう。頭おかしいよ〟
〝ウケるからツイッター上げとこ〟
周りの人たちは、ドゥヒィ野郎を汚物でも見るかのように眺めている。
やっぱり気持ち悪いと思ってるのは俺だけじゃないみたいだ。
演技がかった動作で、ドゥヒィ野郎はふらふらと立ち上がった。
「17位、だと……!」
「ふーん。身内でしかパーティ組まないわりには、そこそこじゃん。じゃ、ドゥヒドゥヒ言ってないで、お家帰って、俺よりランキング上がるまで引きこもってな」
肩に手を置くと、ドゥヒィ野郎はドゥヒドゥヒ鳴きながら消えていった。
やべっ、手にフケついてんじゃん、最悪。
俺は除菌シートを取り出し、手の平をぬぐった。都会にはどんな菌がいるかわからないから持っていけと言ってくれたばあちゃんに感謝しとこ。
ドゥヒィ野郎が消えても、女の子は青白い顔で立ちつくしていた。目の焦点がさだまっていない。
「大丈夫? 強烈なのに、絡まれたね」
少しでも安心できるよう、俺はマスクを外して声をかけた。
「だ、大丈夫です……」
震えながら、か細い声を出した女の子は、全然、大丈夫そうには見えなかった。
「駅まで送って行こうか? 慣れてないなら、こんなとこ来ちゃだめだよ。あそこまで頭イッてるやつはなかなかいないけど、変なのに絡まれたら嫌でしょ」
女の子は小さい顎を縦に動かした。
「限定のアイテムだけもらって、帰ろう。駅まで送ってく」
さっきの騒動を見ていた人は、アイテムがもらえるスポットを優先して空けてくれた。
割り込む形になったものの、ありがたいことに気づかってくれる人までいる。
周囲の人に〝ありがとうございます〟と、〝ごめんなさい〟を繰り返していた女の子は、俺に対しても頭を下げた。
「俺はただ単にあいつがムカついただけだから、謝んなくていいよ。ああいうのがいるせいで、ゲームの評判が落ちんだよな。はい、スマホ出して。早く終わらせよう」
先に受け取りを済ませた俺は、女の子がログインする画面をなんとなく眺めていた。アバターの下に表示されたキャラクターの名前を見て、思わずえっと声が出る。
表示された名前は〝結〟
そういえば目の前の女の子は、名前だけじゃなく、見た目も結しゃんにそっくりだ。
清純派アイドル顔負けの女の子。
おっぱいだけは、アバターよりちょっと――いや、だいぶ、ちっちゃいけど。
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