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森孝くんと結しゃんの話8

「ありがとう。じゃあ、お部屋行ってからお風呂に入るね」  ぼく用と()している部屋に行くと、テーブルの上に、リボンのかけられた大きな箱が置いてあった。箱とリボンの間に挟まれているメッセージカードを手にとる。 〝今日は、ばーばのワガママに付き合ってくれてありがとう。本当は結の好きなお店に服を見にいきたかったのだけど、そうすると結は遠慮して、自分で好きなもの選ばないでしょう? ママから結が好きなお洋服のブランドを聞きました。気にいるものがあるといいのだけど〟  箱をあけてみると、ぼくの好きなお店の服が何枚も入っていた。 「おばあちゃん!」  急いで階段を降りる。  キッチンに立っていたおばあちゃんは、眉を片方ひょいっとあげた。 「レディは……」  たしなめるように言われ、歩幅を小さくする。 「そんなことしません、でしょ?」 「よく、できました。好みの服はあったかしら?」 「ありがとう。新作のワンピースね、可愛いなって思ってたんだ」  おばあちゃんの優しさに胸がじんとしつつ、明日、嘘を言って出かけるので、申し訳ない気持ちになってくる。  ごめんね、おばあちゃん。と、心の中で謝っておく。ううう、罪悪感でいっぱいだ。  ほかに誰もいないのに、おばあちゃんは口の横に手をあて、ささやくように言った。 「明日、デートなんでしょう。おじいちゃんやパパに知られたら大変だから、バレないように気をつけなきゃ、だめよ」 「……!」 「あと、簡単に男の人と、二人きりにならないこと。初めてはね、いつか思い出した時に――たとえ結ばれなくても、いい思い出だったと思えるくらい、大切な人に捧げるの」  捧げるような体はないんだけどな、と思いつつ、鋭すぎるおばあちゃんに、つい表情が固まる。正確にはデートじゃないけど、浮かれ気分なのを見抜かれたのだろう。  会えるかわからないのに会いに行ってしまうほど、ぼくはもりしゃんに恋をしていた。

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