22 / 72
森孝くんと結しゃんの話8
「ありがとう。じゃあ、お部屋行ってからお風呂に入るね」
ぼく用と化 している部屋に行くと、テーブルの上に、リボンのかけられた大きな箱が置いてあった。箱とリボンの間に挟まれているメッセージカードを手にとる。
〝今日は、ばーばのワガママに付き合ってくれてありがとう。本当は結の好きなお店に服を見にいきたかったのだけど、そうすると結は遠慮して、自分で好きなもの選ばないでしょう? ママから結が好きなお洋服のブランドを聞きました。気にいるものがあるといいのだけど〟
箱をあけてみると、ぼくの好きなお店の服が何枚も入っていた。
「おばあちゃん!」
急いで階段を降りる。
キッチンに立っていたおばあちゃんは、眉を片方ひょいっとあげた。
「レディは……」
たしなめるように言われ、歩幅を小さくする。
「そんなことしません、でしょ?」
「よく、できました。好みの服はあったかしら?」
「ありがとう。新作のワンピースね、可愛いなって思ってたんだ」
おばあちゃんの優しさに胸がじんとしつつ、明日、嘘を言って出かけるので、申し訳ない気持ちになってくる。
ごめんね、おばあちゃん。と、心の中で謝っておく。ううう、罪悪感でいっぱいだ。
ほかに誰もいないのに、おばあちゃんは口の横に手をあて、ささやくように言った。
「明日、デートなんでしょう。おじいちゃんやパパに知られたら大変だから、バレないように気をつけなきゃ、だめよ」
「……!」
「あと、簡単に男の人と、二人きりにならないこと。初めてはね、いつか思い出した時に――たとえ結ばれなくても、いい思い出だったと思えるくらい、大切な人に捧げるの」
捧げるような体はないんだけどな、と思いつつ、鋭すぎるおばあちゃんに、つい表情が固まる。正確にはデートじゃないけど、浮かれ気分なのを見抜かれたのだろう。
会えるかわからないのに会いに行ってしまうほど、ぼくはもりしゃんに恋をしていた。
ともだちにシェアしよう!