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森孝くんと結しゃんの話12

 保健室に行くと、先生がアルコールの脱脂綿を作る作業をしていた。週末合コンでもあったのか、ぼさぼさだった髪が小綺麗になっている。 「おはよ」  俺は先生に挨拶して、机のそばの丸椅子に座った。先生が迷いなく冷たい視線を向けてくる。 「今日は、なに?」  サボり常習犯なので、はなから塩対応だ。 「気がのんなかったから、遊びきた」 「……ハァ、坂本くん見習って、せめて仮病くらい使いなさいよ」 「嘘。ちょっと用事あってさ。ちゃんとホームルーム始まるまでには……帰るよ」  間を置いた俺に、先生の目つきがキツくなる。 「帰るって、ちゃんと教室に帰るんでしょうね? 家に帰ったり、中抜けしたりしない?」  先生の立場を考えて頷いておいた。先生は胡散臭そうな目で俺を見て、アルコールの脱脂綿を作る作業に戻る。 「ねぇ、名簿、見して?」  机の脇にかけてあった生徒名簿を手にとり、A組から順に名前を指でなぞっていく。  さっき会った、結しゃんと同じ香水をつけていたやつは誰だったんだろう。野郎には興味ないが、結しゃんがつけていた香水の名前が知りたかった。そんなのにすがるなんて、バカげてると思うけど。  ある名前で、指が止まった。一年A組、小林結人。  結、の一文字が入っている。  いやいや、いやいや。  たまたまだろう。結がつく名前なんてたくさんあるし。いや、男ではあまり居ないか。  名簿を凝視していると、予鈴が鳴った。 「はい、終わり」  先生に生徒名簿をひょいと取り上げられる。 「D組は一限目、保健体育でしょう。普段サボってる分、テストくらい良い点取れるように戻んなさい」  青髭の暑苦しいおっさんの面が目に浮かぶ。 「朝から暑苦しい顔、見たくない」 「見たくなくても、声聞くくらいできるでしょう。こういう時に出席日数、稼がないでどうすんの」 「暑苦しい顔は否定しないんだ?」 「……減らず口叩いてないで、早く戻る!」  わざわざ全クラスの時間割を壁にはってる保健の先生は、強引に俺を部屋から追い出した。単位が危うい授業は追い出し方がキツめである。

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