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森孝くんと結しゃんの話13
授業に出たり、サボったりしながら放課後まで待ち、A組に向かった。
俺のクラスとは違いお行儀よく閉まっていた扉を開けると、後ろの席のやつと目が合う。俺の姿を見てあからさまに目をそらされたが、かまわず、声をかけた。
「小林結人って、どいつ?」
死んだふりなのか、下を向いたままどスルーされる。俺を檻から逃げ出した猛獣かなんかだと思ってるんだろうか。
「小林結人は、ぼくですけど」
前のほうに座っていた一人が、気まずそうに顔の横で小さく手を上げた。紺色のジャージ。朝のやつが小林結人で間違いなかったらしい。
俺は結人だと名乗ったやつのそばまで行き、うつむいた顔を覗き込んだ。
震えながら唇をひき結ぶ顔に見覚えがあった。
――結しゃんだ。髪の毛は短いが、この間はウィッグでもかぶっていたんだろう。
だけどどうにもピンとこない。同一人物なのは分かるけど、合わない鍵を無理やり鍵穴にねじ込むみたいに違和感があった。
少しカサついた唇を見て気づく。そうか、化粧をしてないからか。
「なぁ、今日って、暇? ちょっと、着いてきて」
「着いてきてって……どこに?」
とまどう結人を玄関まで引きずるようにして行きながら、同じ学校に通う小百合に電話をかける。小百合は俺のひとつ上のねーちゃんだ。
〝今日部活あるが?〟
〝あるけど、何よ〟
〝ないなら、女装させてほしいやつがいるんだけど〟
電話の後ろでごちゃごちゃ声が聞こえる。小百合の友達が一緒にいるんだろう。
〝今、急に無くなった〟
〝無くしたがーろ〟
〝ふぐっへへ〟
〝気色悪い声出すなよ〟
〝可愛い子ちゃん? 可愛い子ちゃん? まこっちくんや、太陽くんより可愛い? ……ハァッハァ〟
電話の向こうからは、ドゥヒィ野郎もびっくりの、気色の悪い声が返ってきた。さぶいぼが一気に立ち、電話したのを後悔する。今すぐ切るか、スマホぶん投げたい。
〝そんなんばっか言ってっから、まこっちも太陽もうちにほとんど来なくなったんだぞ〟
〝え、あんたそっちのけでイチャイチャしてるんじゃないの?〟
〝んなわけあるか〟
見てくれは悪くないのに、男の掛け算しかできない残念すぎる姉だ。
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